..xx 共同戦線 xx..








とある夜。
コンビニからの帰り道のことだ。

何かの気配を感じて、視線を上にあげた。


「こんばんは、帝人君」

「・・・折原・・・臨也さん・・・」


その先には綺麗に円を描いている月。
月との間には、ファーの付いたジャケットを身に纏う一人の青年がフェンスの上に立っている。
満月による逆行で顔が見えにくかったが、背格好や声からして間違いはないだろう。


いつもとは違う彼の雰囲気から、ついフルネームを口にしてしまった。

目の前に立っている臨也からは殺気に近い空気を感じる。

それは”平和島静雄”に向ける矛先と似ているが、決して同じものではない。

あくまで近い空気であって、敵意ではないし、また”殺す”という明確な意思が感じられないのだ。


(あれは”僕”に対してのモノだ。どうして・・・?)


彼にその空気を自分に向けられる原因など身に覚えがない。

自然と冷や汗が背を伝い、体が後ずさってしまう。


「僕に何か用ですか?」逆光にも目が慣れて、徐々に臨也の表情が見えてきた。
口元は笑みを浮かべているのに対して、目はまるで獲物を見つけた獣のようだった。

帝人を縛りつけるような目をしていて、逃げようにも逃げれない。


「ゲームしない?」

「…ゲーム…ですか?」


紅色がかった瞳が細められて、”そう、ゲーム”と復唱した。
臨也はジャケットから携帯を取り出すと、手の上でくるくると器用に回し始める。


「簡単だよ。0時まで捕まらないように逃げる事。それだけ」

「…何のメリットがあるというんですか」

「そうだね〜・・・帝人君が勝ったらさ、何でも言う事聞いてあげるよ。
何だって欲しい情報を流すし、好きな子の事を調べてあげてもいいし。
あ、俺に死んでとかっていうのは無しね」


彼の気まぐれであろう、突然の思いつき。
何か裏があるのだろう。


しかし、臨也の情報量は莫大かつ質が良い。

正直に言うと、その景品は喉から手が出るほどに欲しい。


(…賭けに出てみようか)


決意を固めると、右手に持っているコンビニの袋をきつく握った。


「折原さんと僕では明らかに差がありますよね」


普段から平和島静雄と人外な争いをしている臨也には、身体的にも精神的にも帝人とはかけ離れている。

今の彼こそ、その証拠だ。

フェンスには茶褐色の錆が蔓延り、成人の男の足元を支える事など容易ではないだろう。
そんなフェンスからは錆一つ零れ落ちることは無い。

同時に、臨也はバランスを取ろうとしている様子が見られない。
自然体で、ただ立っているだけだ。

調度良いバランスを体が知っているのであろう。

もちろん、そのバランスを保つ筋力や体力だって必要になる。


そんなオリンピック選手顔負けのバランス感覚は帝人にあるはずがない。


「流石にハンデとか無しはキツいですよ」


余程のハンデが無ければ、勝算は0に等しい。


臨也がハンデは無いと答えたら、ゲームに参加する気などない。


「もちろんあるよ。他人の手を借りてもOKっていうのはどう?
 どこかの首無しに頼んで逃げ回ってもいいし、同級生のメガネっ子に匿ってもらっても構わない」


帝人の体力等の差について、予め考えていたのだろう。
臨也は迷うことなく提案した。

しかも、そのハンデを断るはずはないという自信を持っているようだ。


(今日の予定は無いってセルティさん言ってたし・・・頼み込もう)


帰宅途中で偶然擦れ違った際に、セルティはそう口にしていた。

今頃、同居相手の新羅と食後のお茶でもしているかもしれない。
お休み中に悪いが、頼めばきっと力になってくれるだろう。


本音を言えば、優しい彼女の性分につけ込むようで多少気がひける。


だがここで臨也のゲームを断ったら一体何があるか分かったものではない。

夜が明ける前にはダラーズの掲示板にウイルスをばら撒かれるかもしれないし。
家に忍び込み、様々な情報の入ったパソコンをつつかれるかもしれないし。


考えただけでも寒気がする。


「分かりました。それで構いません」


とにかく、セルティがいるマンションへ一直線に向かおう。


「20秒したら動くから、頑張って逃げてね」


臨也は手に持っていた携帯をコートのポケットに滑る様に入れ、代わりにナイフを取り出し、刃先を帝人に向ける。
ゲームといっても、それなり本気は出すようだ。


コンビニの壁にかかっていた時計は21時前だった。
0時までおおよそ3時間程度。

自分一人では逃げ切れないだろうが、他人の協力があれば勝てる可能性もある。

・・・一か八かの賭けだ。


「それじゃあゲームスタートね」


声と同時に体を翻した帝人は、セルティの住むマンションへ向かおうと走りだした。

彼女が住まうマンションはここからそう遠くない場所にある。

20秒もあれば、臨也との距離はかなり引き離せるだろう。


「あ、そうそう。鬼メンバーは俺と―・・・」


十字路を左折しようとした瞬間、その方角から来た人とぶつかった。

反動で後方へ倒れそうになったが、その人が帝人の肩を引き寄せてくれたおかげで、尻餅をつくような事態は免れた。

ちょうど目の高さにある黒い蝶ネクタイと、白いシャツが目に入った。
服からは染み込んだ煙草のニオイ。

まさかと思い、目の前の人物を見上げた。


「シズちゃんもいるから気を付けてね」
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