..xx それゆけ、平和島ファミリー! xx..








数日前、家族が増えた。

元の名は”竜ヶ峰帝人”。
今は”平和島帝人”と性を変えた。

しばらく預かると聞いていたが、苗字を変えたということは、もともとの家族の元には帰る予定は無いのだろうか。


この帝人という少年は元々は人当たりがよくて素直で明るい子供だったのだが、両親の虐待をうけ、心に深い傷をおっていた。
平和島家に来た当初は何を話しても反応しないし、食事や間食も何一つ取ろうとしなかった。

それが静雄と過ごした数時間のうちにガラリと代わり、明るい受け答えをするし、いつも笑顔を振りまいている。
まるで何事もなかったかのように。


――同時に静雄も変わった。


小さい頃のトラウマにより、子供を含めて家族や親しい友達以外には必要以上に関わらないようにしていた。

そんな静雄は、帰宅後すぐに帝人の遊び相手をし、夜になれば共に入浴をして同じベッドで就寝。
食事や外出の時までもベッタリで、子供である帝人の方がよっぽど大人に見えてくる。

学校へ登校する朝なんて、親バガさながらの光景が繰り広げられている。
帝人と離れ離れになるのを嫌がる静雄をズルズルと引っ張って、通学路へ放り投げなければならない。

本気で抵抗されれば引っ張ることなど無理だ。
だがそれが出来ているのは、学校へ行かなければならない事をちゃんと理解しているのだ。


(……なんだろう、この感じ)


帝人と静雄のベタベタと仲の良すぎる光景を見る度に、何故か機嫌が悪くなる。

"実の兄を取られた"という嫉妬心があるのだろうかと、思っていた。


(……兄貴ばっかり……)


幽が機嫌が悪くなっているのが分かっている帝人は、その度に幽のことを気にかけてくれる。
帝人の視界が自分に移ると、それまでのイライラ感が綺麗さっぱりと無くなった。


嫉妬心は帝人でなく、静雄に向けられていたものだった。


「かすかさん…だいじょうぶですか?」


小さい顔に対して大きな瞳も。
伸ばされた小さな掌も。

これは"自分"だけに向けられたもの、と安堵した。


「ねぇ、帝人君」

「なんですか?」

「大きくなったら僕と結婚してくれる?」


何て馬鹿なことを言っているのだろう。

こんな小さな子供に言っても分かるはずもないし、大きくなった所で忘れるはずなのに。

だが帝人は微笑んだ。

はい、と。


「約束だよ?」

「はい」

「18歳になったら…海外で結婚式あげようね。これも約束だよ?」


帝人の手の甲に靴ビルを落とすその姿は、童話に出てくる王子様そのものだ。





*************





「幽さん、朝ですよ」


あれから10年あまり。
芸能界へデビューした幽は、多額の収入のうちからマンションを購入した。

池袋駅から徒歩数分の所にある、とてもセキュリティーがしっかりした住居だ。

仕事が忙しくてなかなか帰られないのが現実だが、静雄と帝人との三人暮らしをしている。

家事に関しては当初当番制にしていたのだが、生活リズムが一番良い帝人がほとんど担ってくれている。


「んー…もうこんな時間なんだ…」


幽を起こしに来たエプロン姿の帝人はお玉を持ったまま、バタバタと動き回っていた。

その後ろ姿を目で追う。


あんなに小さかった帝人も今では高校生になった。
自分達にはまだまだ及ばないが、身長も体重も以前よりずっと成長した。



帝人が18歳になるまで、あと少し――…。





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