..xx 共同戦線 xx..




帝人が平和島家に来た、最初の夜。

入浴後、ミニカーや新幹線の玩具で少し遊んだ。

昼間に母親が買ったパジャマを、帝人は自然に着こなしている。
外見的に違和感はないし、本人は全く気にしていないが。
ウサ耳のフードが付いているのだが、律儀に被っているのでウサギの着ぐるみのようだ。
女の子ならいいのだが、帝人は男の子だ。
…それでいいのだろうか…。

そんな疑問が薄れてきた頃、静雄の膝の上が定位置になった子供は目を擦りはじめた。
そろそろ眠くなったのか、と時計の時刻を確認すると既に21時をまわっていた。

ウトウトとしている帝人を抱き上げて両親の寝室に連れて行った。

しかし。


「一緒に寝ろって…オレが?!」

「当たり前でしょー。帝人君、こんなに懐いてるんだし」


抱き上げられている帝人に"おやすみなさい"と頭を撫でた母親は、自室の寝室の扉をしめた。
そんな静雄の母に"おやすみなさい"と手を振る帝人。

決して、帝人が嫌いというわけではない。
ただ不安要素が大きいだけなのだ。

面倒を見るだけならいいのだが、無意識の状態において自分が何をしでかすか分からない。
もしかしたら押しつぶしてしまうかもしれないし。
もしかすればイタズラをしてしまったなんてことも考えられる。

…こんなに可愛いのだし。


「え、ちょっ、一緒に寝ろって…どうやって?!!」

「帝人君のこと、潰すなよー」


父親もそう声をかけて、妻の待つ寝室へと入っていった。
"夫婦水入らず"というし、さすがにこの扉を開けて抗議する勇気はない。

母親に対して同様に、帝人は父親に対しても手を振った。
なんとも律儀だ。


「………寝るか…」


父親も口にしたように、とにかく潰さないようにしなければ。


自室に入り、ベッドの上に帝人を下ろした。
初めて静雄の部屋に入って物珍しいのか、キョロキョロと辺りを見回している。
フードを被ったままなので、まさにウサギそのものだ。

布団の上に座っている帝人を見ていると何ともイケナイ気分になってくる。
据え膳以下略な言葉さえ浮かんでくる始末だ。

早く寝よう。
きっと疲れているのだ。
寝て忘れよう。

いや帝人の存在を忘れてはいけない。


「ここはシズオさんのおへやですか?」


静雄が悶々と行ったり来たりの思考を巡らしているうちに、帝人は小さな手を使ってウサ耳フードをモゾモゾと脱ぎ始めていた。

もう寝る時間だということをちゃんと分かった上での行動に驚く。
同時に、なんとも空気の読める子供だ、と関心もした。


「あぁ。お前もここで寝ろってさ」


成長の大きめのベッドは自分と子供が寝る分には申し分ない広さだ。

ウサ耳のフードを下ろした帝人に薄めの掛け布団をかける。
それでも重いのか、少し苦しそうだ。


「潰さないように頑張るけど…何かあったら逃げろよな?」


5歳児にとっても何とも無理難題だが、どうしようもない。
出来るだけ寝ないようにしよう。

帝人の隣に体を入れると重みでベッドが軋んだ。
思ったより大きな反動だったようで、帝人の体が少し飛び跳ねる。
それが面白かったのか、小さく笑った。


「ぼくはだいじょうぶですよ」


子供体温というやつだろうか。
冷たかったはずのベッドの中は、すぐに暖かくなっていた。
だが念のため布団を引き上げる。


「しずおさんの体、つめたいですね」

「悪い。毛布持って来た方がいいか?」

「だいじょうぶです。ぼくがあたためます」


ぴったりと静雄の体に寄り添ってきた。
触れ合う箇所が暖かい。
より密着しようと、ぐりぐりと頭を摺り寄せている。

それまで我慢していたのだが、もうダメだ。


「…っぁ゛ー…帝人…お前、すっげー可愛いなー!」




尋常ならぬ力とキレやすさから、自分に近づく者はあまりいない。
さらに好意を持つ者なんてもっといない。

今の帝人は静雄に絶対的な信頼を寄せてくれている。

それが嬉しくて、つい抱きしめてしまった。

柔らかくて、暖かい。
小さめの体も、抱きしめるのに調度良い大きさだ。


「っと、やべ!大丈夫か?!」


腕の中の帝人を見るが、キョトン顔をしている。
無事のようだ。

一安心して腕を離そうとしたが、帝人はそれを引き止めた。


「……あの…いやじゃなかったら……こうしててください」


今日出会った子供は、短い時間ながらも分かったことがある。
拒否することも強請ることもしないのだ。
与えられるものは与えられるままで、足りないものは足りないまま。

家で虐待されていた時も暴力を受け入れて。
愛情が足らなくても、要求しない。
今までそんな風に生きてきたのだろう。

その子供が要求したものがコレだ。

帝人はオドオドと、自信なさげに俯いている。


「…ずっとこうしててやるよ」


出来るだけ優しく、帝人の体を包みこむように抱きしめた。




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