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1年なんてあっという間だった。
恋次を紹介されたのは去年の9月の頭だったと思う。
友人が誘ってくれた飲み会にいた、違う学部の男の子だった。
とっつきにくいように見えてどこか抜けていて、強面に見えて優しくて、安心できる存在だと思う。
付き合い始めたのは、それから1ヶ月も経たなかったくらいだった。



大学を卒業して、お互い社会人になって。
職種も違えば会社も違う、勤務形態もちがうあたしたちだったけれど、別れることはなかった。
もともと頻繁に連絡を取り合ったり会ったりするわけじゃなかったからかも知れない。
それよりお互い新社会人、会社に慣れることだけに追われていた気がする。

だからかもしれない。
もう9月も終わりに近づいて。
仕事も覚えてきて、量だって増えてきて。
そろそろ寂しくなったなぁと思うのは。

だからかもしれない。
恋次がくれた、23日は1日開けておけといった内容のメールに浮かれたのは。





「だから、すごく幸せなんだよ」


恋次からしたら突拍子もない発言だったのだろうと思う。
9月23日。あたしたちが付き合いだして、ちょうど1年。
記念日とか気にするタイプではないと思っていた恋次は、朝からあたしの家にいた。
正確には、前の日の夜から、だ。

何をするわけでもない。ただ、一緒にいるだけの時間。
朝からごろごろとテレビを観ているだけの、つまらないような時間に見えるかも知れない。

でも、あたしは幸せだと感じられる時間だ。



「…そーかよ」
「あ、恋次照れてる?」
「照れてねぇ」
「耳まで真っ赤だよー」


からかうように言ってやると、すぐそっぽをむく。
こんなにリラックスして一緒にいられるのが凄く幸せだ。
まるで1年前のあたしたち。何をするでもなく、ただ一緒にいられることが幸せ。
変わったのは年齢と、生活する環境と、あとはなんだろうか。
あたしたちも変わったかも知れない。
でも、1年前と何も変わらないこの空気が、愛おしいと思う。


「ナマエ」
「なーに」


そっぽを向いていた恋次が、視線を合わしはしないけど、あたしを向く。
間延びした、彼からするとまぬけな声をだして尋ねる。
そうすると、恋次はぶっきらぼうに握り拳を差し出した。あたしは両手を差し出した。


ころん、


と、手のひらに転がるのはシルバーの指輪だった。




「これ、」
「あと3年もしたら、もっといい指輪買うからそれで我慢しとけ」



その言葉の意味を、理解できないことなんてきっとない。
嬉しくて仕方がなくて泣きそうになったけど、それよりもこの気持ちを伝えたかった。



「…重いって」
「ちょっとだけ我慢して、」



再びテレビに視線を移す彼の大きく広い背中に飛びついた。
あったかい。安心する。
大きく息をする音が聞こえたと思ったら、手を回されて頭を2度、優しくたたいてくれた。
涙腺決壊するかとさえ、思った。



それがたとえば他のひとにとって特別じゃなくても、
あたしにとってはすごくすごく特別なものだ。



「恋次、」



この1年をありがとう。
次の1年も、どうぞ一緒に。



「いようね」


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