修兵くんの手のことを、神の手と呼んでいる。
あたしのこのうねる髪の毛を自在に操ることができるからだ。
あたしは制御できない、他の美容師でも難しいこの髪の毛。
修兵くんだけはなぜか、手品のようにするすると、するすると。
「本当、いつも助かります」
「なんで敬語」
「たまには敬っておかないとなぁと思って」
なんだそれ。なんて言って笑う修兵くんの目が好きだ。
もともとあんまり大きい方じゃない、すこし怖い目が、優しくなる瞬間だから。
「毎朝バクハツして大変なのよ」
「あぁ、ナマエちゃんって超不器用だからね」
「どーゆーイミ」
「俺が教えたケア、やるにはやってるけどうまいこといかないんだろ?」
どうせ。と、語尾につきそうだけど。
そしてちょっとイラッとしたけど図星だから何も言えない。
無言は肯定ととった修兵くんは、クツクツと笑った。
「家に専属の美容師が欲しいよね」
「あ?」
「だって、シャンプーとかもしてほしいし。ケアもしてほしい」
「ナマエちゃんって本当」
「なに」
「面白いよな」
なんだそれ。今度はこっちのセリフだ。
毎朝毎朝バクハツする髪の毛とたたかってるんだ。
そう思うこと自体不思議じゃないじゃない。
笑いをこらえることもしない修兵くんをじっとみていると、耳元に手を当てた。
「俺が専属の美容師になろうか?」
ぼそりと、あの低い声で発せられるうえ、耳に息がかかるのがくすぐったい。
くすぐったい、を通り越して鳥肌になってしまった。
「じょ、」
「冗談で大切なお客さんに手ェは出そうとしませんて」
「…本当、嫌なヤツ」
「褒め言葉」
目を細めて笑ったまま、あたしの髪の毛をすいていく手が、さきよりも優しくかんじた。
ほだされている、だめだ。なんて思い目を瞑ると、優しく撫でられて驚いた。
「返事はいつでもいいけど」
その声色に、断られるという予想は一切ない。
不遜な男だと思う。
そしてその不遜な男に少なからず心臓をゆさぶられたあたしは、見る目がない。
しかし、それすらも愛おしいなんて。
本当に見る目がない。
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1周年企画。ゆうき様へ。
美容師修兵くんです。なんか、修兵チャラい?チャラい??
でも美容師だし、いいかなー、なんて思ってしまいました。
本気じゃないんだろうけど、美容師にときめいてしまうことがありました。
彼らはほんとう、すごいと思います。いろいろと。
リクエストありがとうございました。
これからもなにとぞよろしくお願いいたします。