「お疲れ!」



「……っす」



朝練の後、白石部長が肩を叩いて俺に声をかけてきた




ふと、泣いていた彼女のことが頭に浮かぶ



このひとは、彼女があれだけ涙を流していることを知っているのだろうか



……そういえば、俺はあのひとの名前をまだ知らない



「白石部長」



「なんや?」




「…部長の彼女、名前何ていうんすか」




「彼女?
みかげのことでええんか?」




白石部長が、何でそんなことを聞くのかと不思議そうに首をかしげた



みかげ先輩、か



今度会ったら名前で呼んでみようとか思ってしまう、俺





「あのひと…
みかげ先輩、って」



「ん?」



「変なひとですね」



俺がそういうと、白石部長はさらに首をかしげながら



「せやろか?
普通な気ぃするけどな」



と答えた



「そうっすか…」



俺は、白石部長も十分に変なひとだということを忘れていたようだ













「…なんでいるんですか、みかげ先輩」



昼休みにいつものように屋上にいくと、先客がいた



名前を呼ぶ機会は、思ったより早く訪れたようだ





『暇だから、財前光くんに会えるかと思って』



「…はぁ、」



このひとは、一体何を考えているのだろうか




『ていうか財前光くん、私の名前知ってたんだね!』



みかげ先輩の顔が、パァっと輝く



「まぁ、」



白石部長に聞いたんですけど


という言葉を飲み込む



その名前を出したら、このひとはまた泣くんじゃないか



そう思って口を濁していると




『…光くん』



イタズラっぽく笑いながら、みかげ先輩が俺に近付いて




『キス、してもいい?』



と、突拍子もないことを言いはじめた


そして



「………ん、」





ちゅぱっ



というリップ音がした



嘘、やろ…




そう、承諾してもいないのに、彼女は勝手に俺の唇に自身のそれを軽く触れさせたのだ






『ねぇ、光くん』



みかげ先輩はスキップするかのように、俺から離れた



「なんなんすか、ほんまに」



俺は柄にも無く、動揺しているみたいや



唇から伝わった熱が、身体中を熱くさせる






『光くんとちゅーしちゃったから、蔵ノ介と別れなくちゃいけないかな?』




彼女から出た“蔵ノ介“という言葉に、頭をガツンと殴られたような気がした


結局は、
それか――――――





彼女はきっとまた、彼を想って大声で泣くのだろう












「今日はぼくだけのあなたですか」


「さてね」








*
bacK

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