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04 市中見廻り


広間に集まると近藤局長より各隊に勤務の割り当てと微細な注意事項が伝達された。
昼六つ、勤務当番の者は任務に就く。三番組は昼巡察に当たっていたので、名前は他隊士達と花屋町通りに面した門で待機していた。
間もなく組長である斎藤が二名の伍長を伴い姿を現す。
隊の編成は五名の隊士に伍長が一名付き六名で一組、二組単位での行動となっているので計十二名である。
それを副長助勤である各隊の組長一名が統括し、実戦では小隊長として指揮を取った。
巡察においては二隊が行動を共にするので、総勢二十数名になった。
その日は原田組長率いる十番組と組んでいた。門前に集合し市中見廻りに出発する。
巡回区域はかなりの広範囲に渡り幾通りかに区分されていた。

「今日は御所付近までだな」
「では守護職屋敷の正門前で二手に分かれるとしよう」

ぞろぞろと進む隊列の中には抜刀している者もおり、揃いの隊服で往来を行く姿は壮観であった。
その先頭にあって組長二人が打ち合わせている。
すぐ後ろを歩いていた名前を振り返り原田組長が声を掛けてきた。

「名前、大丈夫か? 距離があるからな。辛くなったらすぐ言えよ」
「お気遣いありがとうございます。ですが問題ありません」

名前は当たり障りないようやや固い声で答えたが、ふと見ればこちらを向きもしない斎藤組長の背中がどこか不機嫌そうに感じた。何か言いたげに肩を揺らしたようにも見えたが、結局斎藤は前を向いたままだった。
隊務に就くうちに、常に無表情で静謐な人物と思い込んでいた三番組組長にも感情の起伏がある事、それが時折極めて控えめに表される事を理解し始めていた。
私は何か組長の気に障る事をしてしまったのだろうか。
名前は内心わずかに動揺していた。
滞りなく巡察を終え帰営の途中丁度同じ刻限に戻ってきた十番組と堀川通りで再度合流する。
原田が名前の隣にやってきて肩に手を掛け顔を覗き込む。

「疲れただろ。稽古もそうだがお前、色々頑張り過ぎじゃねえか? 顔色よくねえぞ」
「いいえ、何ともありません」
「無理だけはするなよ? 俺達もなるべくお前を……」
「左之、いい加減にしろ。苗字に無闇に近づくな」

斎藤が原田の言葉をいきなり遮った。
周りに聞こえぬよう抑えた声ではあったが怒気を含んでいる。
入隊に先立ち助勤以上の幹部と監察方、勘定方には予め内密に事情が明かされていた。

「隠していてもこいつの事は気遣ってやらねえと、他の奴と一緒に扱うのは酷ってもんだろ」
「うるさい。俺の部下に口出しは無用だ」

声を荒げた斎藤を見て名前が目を見開いた。
彼の寄せた眉の下の冷たい目の光に驚く。
自分が女である事が組長を苛立たせているのであろうか。不機嫌だったのはこの為かと慌てて謝罪の言葉を口にした。

「申し訳ありません。ご迷惑を掛けないようにしますので……」
「……いや、そういう事ではない、」

斎藤が刹那狼狽えるが、彼の目の色は直ぐに平静に戻り原田は気が削がれたのかもう何も言わず先を歩いて行った。
名前は居たたまれない気持ちで隊列に続く。
目を逸らし俯いた名前には、斎藤の目の縁がほんの微かだが急に赤らんだ事に気づける余裕などはなかった。



その夜斎藤が名前の部屋を訪ねてきた。

「夜分にすまないが、少しいいか」
「組長ですか。どうぞ」

何か注意を受けるのだろうか、やはり昼間の事だろうかと身を固くする。
障子をスッと開け入ってくると半間程の距離をとって名前の前に姿勢を正して座った。斎藤はいつもの無表情ではなく困惑したような目をしていた。

「苗字、今日の巡察での事だが、」
「はい」
「その、すまなかった」
「はい?」

思いがけない言葉に一瞬虚を突かれる。

「あの、組長に謝って頂くような事は何も」
「いや、大人げないところを見せた。それに……」

言葉数は少ないが常に迷いのない口調で話す斎藤の、言い淀む様は非常に珍しかった。
名前は黙って次の言葉を待つ。

「お前を男として扱うというのは致し方のない事だが……それでも、女である事に変わりはあるまい」
「…………」
「お前に負担を強いる事は本意ではない。その、俺はそういう事に疎い」

斎藤が何を言わんとしているのか、少しずつ解ってくる。昼間とは違った驚きが名前の心に広がっていく。

「気づいてやる事はなかなか出来ぬ故、その、辛い事があれば……いつでもよい、話してくれぬだろうか」



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MATERIAL: ユリ柩 / FOOL LOVERS

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