He is an angel. | ナノ
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プロローグ


こちらは えんじぇる(前後編) の続編となっています


金曜の夜――。

なんの予定もない私は自宅アパートの最寄り駅を降りると、コンビニに寄りビールを買い込む。
そう言えば顔見知りの(筈の)店員さんが最近よそよそしくなったな、どうしたんだろう? でもまあいいか。
アパートの階段を上ってガサゴソとバッグを漁り鍵を取り出す。
ドアを開け、むくんだ足からパンプスをカコンカコンと脱ぎ捨て、真っ直ぐに冷蔵庫に向かった。

「あー疲れたーっ! ビール、ビールっと」

私の名前はみょうじなまえ。
二か月くらい前までは一応彼氏なんてものもいたけれど、失恋してしまい(他の女に取られたんだ、チクショウ)、金曜と言うのにこうして侘びしく自宅で独り飲み。
でもこれも悪くないと最近思い始めている。
気取った格好で気取ったお店にいくのもたまにはいいけれど、一人ってほんとに気楽だ。
多少お行儀が悪くたって、開けた缶ビールにそのまま口をつけて飲んだって文句を言われない。
あれ? 缶飲みに文句を言う人になんて今まで会ったことがあったっけ?
思考が飛びそうになるが気を取り直して。
コンビニ袋からさきいかとカマンベールチーズを出し、一本プシュッと開け一口グーッと呷ってから残りのビールを冷蔵庫に収めていった。
飲みかけのビール缶とおつまみをテーブルの上に置く。
取り敢えず着替えよう、うん。
もう一口ビールをググッと飲んで寝室に行き、スウェットに着替えた。
ああ、本当に楽。
干物万歳!
テーブルに戻ろうとして、寝室とリビングの境の引き戸に添った二人掛けソファの背を越えて、そこに落ち着こうとした、その時――。
私の動きが止まる。
右足を大きく上げてソファーを跨いだまま暫しのポーズ。だって私の目に信じられない光景が映ったのだ。
ソファのすぐ左横、開けた筈のないベランダに通じる窓が全開していて、白いレースカーテンが夜風に煽られ大きくはためいている。
カーテン越しに黒い人影が映った。

「きゃ……、」

開きかけた口から絶叫が発せられるよりも早く、間髪入れずに素早く近寄ってきた男に私の口は塞がれた。
何これ何これーっ!
何だかいつかどこかで同じ目にあったことがあるような気がするけれど、何なのこれーっ!





He is an angel.
The love tale of an angel and me.





「やはり覚えてはおらぬようだな。危害は加えぬ。声を上げないでくれ」

私を見下ろす男の落ち着き払った声が頭上から降って来る。必死でコクコクと頷く。
ゆっくりと顔から手が外された。
見上げた顔は一瞬私の中の時が止まり我にかえるまで数秒を要する程の、凄絶な美形だった。
それはもうとんでもないイケメン。
紫黒の長い髪は背に流れ、長めの前髪の間から覗くのは形のいい眉。綺麗に通った鼻筋に薄い唇。
身に着けているのは黒い細身のトップス、スリムなラインのパンツも黒。裸足の爪先まで綺麗だ。男性にしては大きい方じゃないけれど、比較的小柄な私よりは15センチくらい背が高く、程良く筋肉のついていそうな均整の取れた体つきをしている。
全身黒ずくめなのに瞳だけがまるで深い海みたいに澄んだブルー。それは吸い込まれそうな印象的な瞳。
思わず全身を舐めるように見てしまう。

なんだろう、これ。
この感じ。
前にもこんな事があった気がする。
私、この人を知っているような気がする。
これって、デジャヴ?

「あ、あの、あの……、どなたですか?」

彼は私をじっと見つめる。吸い込まれそうな深く蒼い瞳で。そしてゆっくりと言葉を紡ぎ出した。

「俺は天使だ」
「は?」
「また、この繰り返しか」
「え?」
「俺は天使だ。わかったか?」
「……はあ、」
「銀行強盗ではないし婦女暴行犯でもストーカーでもない」
「そんな事自分で言うとますます怪しい感じですよ?」
「疑っているのか?」
「いえ、別に。それで天使さんが一体私にどんな御用で?」
「意外にも以前とは違うリアクションをするのだな」
「へ?」
「天使だと信じるのか?」
「え? ほんとは違うんですか?」
「いや、間違いなく天使だ。俺は……あんたに会いに来た」
「は?」

私は全くわけが解らないながらも、得体のしれない筈のこの人にひどく懐かしいものを感じた。
よく考えれば、暗くなってから女子の部屋の窓から侵入してくるなどという不審この上ないこの男性に、怯えるとか恐れるとかしそうなものなのに、私は何故だか彼を知っているような気がしたのだ。
彼の端整な顔は何を考えているのかよく読み取れないが、私を見つめる眼差しにどこか温かいものを感じる。
私、どうしたんだろう。
声を上げる事も110番に通報することもせず、私は目の前の綺麗な男の人に、ただ目を奪われていた。
天使と名乗る男性は所在無げに私の前に立っている。ふと気づけば私はソファの背もたれに片足をかけ跨いだポーズのままだった。この格好で随分長い事このイケメンと見つめ合っていたのだ。
急に恥ずかしさが身内に上って来た私の心を見透かしたように彼が言う。

「そろそろ足を下げぬか?女子にあるまじきその格好は、どうも」
「あっ、あっ、すみません。そうですよね、」

私は慌てて足を……降ろさずに後方の足も上げてソファーの座面に着地させるとそのままストンとその場に座った。
苦笑いをしながら何故か彼も私の隣に腰掛ける。
この構図って一体……。
なんだか馴れ馴れしくないですか?

「あ、あの、それでここには一体何をしに来たんでしょう? って言うか本当にどなたなんですか」
「さっきも言ったが、あんたに会いに来た。俺の名は斎藤一だ」
「はあ、斎藤さんですか。それでどうして私に会いに?」
「……斎藤さんではない」
「は?」
「あんたは前に俺を名前で呼んでいた。はじめさん、と」
「呼んでいた?」
「お、俺達は……あんたが俺を覚えていないのは無理もない事なのだが……その、」
「ま、待ってください。俺達って、あなたと私は知り合いってことですか?」

天使、もとい斎藤さんは、(いや、はじめさんと呼んで欲しそうなのでそう呼ぶ事にする)はじめさんは、真っ赤に顔を染めて口ごもった。
私はその顔に一瞬見とれてしまう。
イケメンの赤面ってなんて破壊力なのだろう。

「あんたと俺は、知り合いと言うよりも……、」
「はい」
「……その、愛し合っていたのではないかと思う」
「はい!?」

耳の後ろまで赤くして消え入りそうな声で呟く彼の、突拍子もないその言葉に私は目を見開いて仰け反った。



This story is to be continued.

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