※姉月子と弟ぬいぬい(がっつり近親ネタです)


絶対に叶うことのない恋をしている。

姉の月子がまた付き合っていた男に振られたという。ああ見えて強がりなきらいがある姉は、外ではともかく家の中ですら決して泣き顔を見せなかった。一樹はそれが苦しい。少しでもいいから姉の力になりたい。どんな形でもいい、姉の世界に触れることが出来るのならばそれでよかった。
「……姉さん」
親は共働きであるため夕食時に家に居ることは滅多にない。故に今日も食卓には姉である月子と一樹の二人だけだ。何時からだったろう、この二人きりの空間が心地好く、けれどもとても苦しいものに変わってしまったのは。(俺はどうやっても月子の一番にはなれない。どうやっても、何があっても)箸を口元に運ぼうとしていた月子は一樹の言葉を受けて一旦動きを止める。そうして何時もと変わらないように見える表情で笑って、どうしたの?、と言った。
「姉さん、また別れたんだって?」
「………え、」
瞬間、月子の表情が凍り付いた。聞かなければ良かったのかもしれない。何時ものように知らない振りをして、何時ものように気付かないふりをして。月子にとって優しい弟である一樹でいればよかったのかもしれない。それでももう見ない振りも知らない振りも気付かない振りもどれも一樹には出来そうになかった。姉が好きだ。家族という枠組みを越えて、一人の女性として姉が好きなのだ。好きなのかも知れない、と思うのではなく確実に。――自分が異質であることくらい、もうとっくに分かっていた。
「か、かずくん…、何言って…、」
「噂で聞いたんだ。辛いなら辛いって言ってくれよ。悲しいなら悲しいって、泣きたいなら泣きたいって言ってくれよ頼むから。姉さん、俺は姉さんが悲しい思いをするのが一番、嫌いだ」
「かず、」
「……姉さんを慰める特権くらい、俺にくれよ」
月子が付けてくれるなら、それがたとえば深い疵であっても構わなかった。どうせなら決して癒えない疵を残して欲しい。そうすれば何時だって月子を感じていることが出来る。何時か訪れる別離の後でも、其処に月子を感じることが出来る。愚かであることくらい痛いほど理解していた。けれども、そう考えて仕舞うほどに好きなのだ、仕方がないのだ。
「かずくん、わたしね、」
月子の目が微かに潤む。ゆっくり伸ばした手が躊躇うように震えたけれど、それでも構わず真っ白で柔らかいその頬に触れた。温かい、胸を締め付ける体温。うん、と先を促せば眩しそうに目を細めてそれから小さく笑った。
「かずくんがいてくれたらいいって最近思うようになったの。だからなのかな、振られても全然苦しくないんだ。おかしいよね、こんな気持ちになるの。みんなにブラコンだって言われるのも仕方がないよね」
その言葉にそれこそ一樹は息が止まるかと思った。好きだ、どうしようもなく姉が、月子が好きだ。月子のためなら何だって棄てられる。何だって犠牲に出来る。それでも月子は自分のものにはならないのだ。(金も地位も名誉もいらない。他に何もいらない。月子の一番になりたい)
昔と同じようにこつんと額をぶつけた。面と向かっては言えないから、言葉の温度に含ませる。気付いて欲しい。気付いてほしくない。相反する気持ちが重なって、残ったのは結局、月子を愛おしく思う気持ちだけだった。
「……俺も姉さんが居てくれればいい。それでいい」
愛している。他の何をおいても誰よりも愛している。だからどうか、どうか。





需要があったら連載になります、な姉月子と弟ぬいぬいでした。
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