高黒黄 | ナノ


※kemuさんのインビジブルという楽曲をイメージしています。透明人間黒子くん


好きですと言われたのではいそうですか、と答えた。数えて何回目の告白だろう。回数など数えていないが、両手で数えられるくらいはあっさり通り過ぎたと思う。毎回飽きもせずよくやるなあ、と思わないでもなかったけれど、そんなことを言ったらきっと彼は泣くので黙っている。
好きです、と言われたのでどうなりたいんですか、と聞いた。途端に彼は困った顔になって顔を赤くした。手をわたわたと動かして何か言おうと口を開けては閉じ、開けては閉じを十回は繰り返して、漸くどうっていうか…とだけ口にする。そうやって返されるとは思わなかったッスから、何も考えてなくて、いや、この気持が嘘って言うわけでもなくて、本当に好きなんスけど、だからどうにかなりたいってわけじゃなくて、だから、オレを、見て、笑ってくれたらいいなあって、思って、
好きです、と言われたので、じゃあかくれんぼをしましょうと、と答えた。黄瀬くん、きみが鬼でボクを探してください。もし、きみがボクを見つけられたらボクはきみのものになります。ずっと、ずうっときみだけのものに。だから、さあ、目を瞑って。



「黒子っちー!どこっすかー!?」
半分以上涙混じりの声を聞きながら黒子は溶けかけたアイスを舐める。黒子と黄瀬がかくれんぼを始めてからかれこれ一時間が経過している。ミスディレクションというには少しばかりえげつない能力を駆使して隠れている黒子は、その実、最初の場所から一歩も動いていなかった。忙しなく動き回っているのは黄瀬の方である。飼い主を失った大型犬のように、一生懸命名前を呼びながら、今にも零れ落ちそうな滴を浮かべて、けれども泣くことはなく、ただ一心に唯一を乞うている。
「うわー…えげつねえ…」
「きみは何をしにきたんですか」
「敵校視察?」
「敵校って…そういうのはバレないようにするものですし、そもそもボクはオフを満喫しているんです。出直してください」
「ええー。ひどい!オレ傷ついたよ!?」
黒子の隣に並ぶ男は大して傷ついてもいない様子でケラケラと笑ってぐうんと大きく一つ伸びをした。黒子が気付いた時にはもう其処にいて、面白そうに黄瀬の様子を眺めている。ちなみに黒子が食べているアイスは男、高尾の献上品である。
秀徳戦を終えてから何故か気に入られたらしい。どこを気に入ったのか全くわけがわからない。そういえばこんなことを言っていた白いキャラクターが居たなあと思いながらアイスを舐めた。黄瀬が黒子の前を素通りしていく。
「つーか、マジで気づかないのな」
高尾が感心したように呟いた。ミスディレクションにしてはえげつなくねえ?ま、その御蔭でオレは気付かれないでいるんだけど。
「さあ、気づいたらこうなっていました。透明人間の気分です。あまり気分のいいものではありませんが」
「透明人間ってお前…。なに、マジで誰も気付かないわけ?火神とか青峰とか」
「さあ、どうでしょう。青峰くんはともかく、火神くんの前では使ったことがないので」
「ふうん…」
元から影は薄かったがここ最近それが顕著になった。何をしていても誰にも気付かれない。よほど大きな声を出さないと相手はこちらが存在していることすら忘れる。ああここまでくると立派な透明人間だ。透明であることを享受してきたのは紛れも無い自分であったが、流石にここまで来るとない胸も痛むというものだ。
更にここ最近は自分から半径十メートル付近のものを全て消してしまうという能力すら付与されているようだった。傍にいる高尾に黄瀬が気付いていないのが良い証拠である。こんな能力、別に望んでいなかったのだけれど、と微かに呼吸がしづらくなる。
黄瀬が本格的に泣き出しそうな顔で前を通り過ぎた。アイスを舐める。
「なあ、これいつまで続くわけ?」
「さあ。黄瀬くんがボクを見つけるまでじゃないですか?」
「見つけられるまでって…黄瀬、お前を見つけられんの?」
「どうでしょうか。わかりません。黄瀬くんの頑張り次第じゃないですか」
その言葉に高尾が一つ溜息を吐いた。
「ま、オレには関係ないけどさ」
「関係ないなら帰っていただいてもいいんですよ」
「……つーかさあ、もしオレが黄瀬の立場だったらどうだったんだろうな」
「は?」
「オレは絶対にお前を見失わない自信があるけど?」
「……そもそもきみと黄瀬くんでは立っている土俵が違いますから勝負になりません。確かに高尾くんはボクのことを見失わないし、絶対に見つけてくれますけど、それに安堵を覚える自分もいますけど、黄瀬くんもきっと見つけてくれると思うので」
「あーはいはい。結局そういうわけね。でもよ、黄瀬はかれこれ一時間お前のこと見つけられてないんだぜ?もう無理じゃねぇの」
「そうでも、ありませんよ」
舐め終わったアイスの棒を見るとあたりの三文字が印刷されていた。いつかの、遠い夏の日を思い出す。
隣にいる高尾がなにか言いたそうに黒子を見る。その視線に気付きながらも敢えて何も言わない黒子は、機嫌が良さそうに当たり付きの棒を振った。催眠術をかけるとでも言いたげな動作は黄瀬の視界に入ったろうか。
「信じてますから」
黄瀬くん。黒子の透明な声がすうっと空に溶けた。途端に当たりをうろうろと涙目で見回していた黄瀬がびくりと反応する。まるで飼い主に名前を呼ばれた犬のようだった。
黒子っち。
きょろきょろと彷徨っていた視線がある一点で固定される。限界寸前まで滴を溜め込んでいたダムは決壊し、ぼろぼろと大粒の雨が綺麗な瞳から落ちていく。それでも黄瀬は笑っていた。
「うわー。そいうの卑怯じゃね?卑怯じゃね?ずるくねえ!?」
「え、ちょ、誰ッスか!?なんで黒子っちの隣にいるわけ!?」
「卑怯じゃありませんしずるくもありません。あと黄瀬くんはいい加減泣き止んでください抱きつかないでくださいここをどこだと、」
「え、オレ?オレは高尾。秀徳一年。よろしく〜」
「よ、よろしくしたくない!なんかすっごいよろしくしたくないッス!」
「ええー。なんでよ」
「……きみたちボクの話きいてますか?」





//有海
∴動脈
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