※何でも許せる方向け
※※starry☆sky in winterの不知火一樹と黄瀬くんが同じ中学だったらパラレル
※※※黄瀬くんに幼なじみの女の子がいる


黄瀬には幼なじみの女が一人いて、どうやら彼女は一つ年上の先輩に恋をしているらしかった。名前は不知火一樹。黄瀬が言っても厭味にしか聞こえないが、成績優秀で見目も好く運動神経もそんなに悪くない、それだけ聞けば完璧な男だった。
けれども黄瀬はその男が苦手だった。嫌いと言っても過言ではない。何しろ素行が悪いのだ。しょっちゅう喧嘩をしているのか生傷が絶えない男は、手負いの獣のよう。あらゆるものに牙を剥き噛み付いてまわる野蛮な獣。
黄瀬は暴力に訴える人間が嫌いだ。そんな男を自分の幼なじみが好きになるだなんて驚き以外の何物でもなかったし、幼なじみには悪いが嫌だなと思った。仮に幼なじみが男と付き合うことになった時、自分とも交流があると思われたくない。
そんな話をそれとなく幼なじみにしたところ(自分でも最低だと思う)、彼女は困った顔で笑って彼がわたしと付き合うなんて地球がひっくり返ってもないから大丈夫だよ、と言う。
「なんで?」
「先輩、好きなひとがいるんだって。世界で一番、誰より大切なひとがいるって、言われちゃった」
あの男にそんな相手がいるという事実にもそうだが、まず彼女が男に告白していたという事実が黄瀬を何より驚かせた。この間まで一人じゃ何も出来ない子供だったのに、気付けば自分よりも随分と先に行っている。
「へぇ…あんなひとにもそんな相手がいるんスね」
「ねぇ、涼太くん。涼太くんは相手が自分のことを忘れても、自分が相手を好きでいられたらいいって思う?」
「なにそれ、心理テストっすか?」
彼女は笑ったまま何も言わない。
「オレは、嫌だな。相手がオレのこと忘れたままでもいいだなんて、そんなこと思えない」
「……うん、だよね。多分、それが答えなんだと思うよ」
「なんの?」
「わたしたちと、不知火先輩の違い、かな」


◇◆◇


その日は何となく朝からやる気が出なかった。何をしても身に入らず、黄瀬は授業をサボることに決めた。ゆっくり押し開いた扉の先には雲一つない青空。
――と、青に溶けるようにして柵にもたれ掛かっている男。
灰の髪、陰りを帯びた若草の瞳。それは幼なじみが恋い焦がれる男のものだった。
「……しらぬい、かずき」
黄瀬の言葉が届いたのか、男はちらりと黄瀬を見て一瞬痛みを堪えるような顔をした。しかしそれも一瞬のことで、興味を失ったのかすぐに逸らされてしまう。直前まで喧嘩をしていたのだろう、唇の端が切れて血が滲んでいるのが遠目でもわかった。
男が此処にいるなんて知っていたら屋上には来なかったのに。しかし今から戻るわけにもいかずに、黄瀬は入口近くに腰を下ろした。
男は何も言わない。
彼女はなんで彼を好きになったのだろう。全く検討もつかない。知りたくもなかったけれど。

それからチャイムが鳴るまで二人は不思議な沈黙を共有しながらそこにいた。チャイムが鳴って漸く男が動く気配がした。
こつこつこつ。音が近づいて来る。当然だ、自分は扉の近くに座っているのだから。
男に反応して動いたと思われたくなくて、黄瀬はそのまま黙っていた。と、
「帰り、階段には気をつけろよ」
「は?」
不意に耳に入ってきた声に、思わず伏せていた瞼を押し上げる。視界に入る若草色はやはり痛みを堪えるような光を宿していた。
「階段」
男はそれだけ言うとスタスタと歩いて行ってしまう。何でそんなことを言われなければならないのかさっぱりわからなかった。ああでも噂で聞いたことがある。不知火一樹は未来が見える、と。もしかしてあの痛みを堪えるような瞳は、黄瀬の未来を見たからだろうか。分からない。知りたくもないけれど。
「……気持ち悪」


◇◆◇


その帰り、黄瀬は階段から見事に足を踏み外して全治一週間の捻挫になった。ちょっと本当に少しだけ男の話を真面目に聞いておけばよかったかもしれないと、思ったりなんかして。
あれ以来黄瀬は男に会っていない。風の便り(というか幼なじみの情報)によると、彼は山奥にある非常に偏差値の高い、星に関することに特化した高校に進学したのだという。そこでも男は、痛みを堪えるような瞳で、いるのだろうか。







//有海
∴かいじゅうはわらわない
(title:彼女のために泣いた)

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -