朝から哉太はそわそわと落ち着きがない。自覚がある分だけまだましだったのかもしれない、今日は月子と初デートの日なのだ。窓の外はどこまでも青い空が広がっており、思わずその眩しさに目を細めた。
待ち合わせ場所に到着してみると、待ち合わせ時刻の十分前にも関わらず既に月子が立っていた。薄桃色のスカートから覗く雪のように白い足が目に飛び込んでくる。ふわふわとゆるく巻かれた髪が風に揺れている様は凶悪なまでに可愛い。彼女の全てが自分のものなのだと思うと堪らなくなる。ずっとずっと、それこそ幼い頃からずっと欲しかった。手に入ることが叶わぬのなら、せめて誰も手に入れるなと祈っていた。それが今己の隣にいるのだ。どれだけ独り占めしようと誰も文句など言わない。(こんなに幸せでいいのか、俺)月子!と名を呼べば嬉しそうに笑ってこちらに駆け寄ってくる愛しい彼女を、今この場で抱きしめても許されるだろうかとそんなことばかりを考えながら。




訪れたのは巷で評判のアクセサリーショップだった。値段も手頃な上にセンスも良いと雑誌でも何回か取り上げられたことがある。その割には店内はあまり混雑していない、二、三組、若い恋人たちが哉太たちと同じようにあれが可愛いこれが素敵だとアクセサリーを物色していた。
「哉太哉太!これは?」
「んー、お前にはこっちのが似合うと思うぜ」
月子はきらきらと瞳を輝かせてアクセサリーを飽きることなく見つめている。その丸い大きな瞳がこちらを向いていないことに少しだけ心が曇るのを感じたが、かといって本当に楽しそうな月子の表情を自分の醜い嫉妬心で曇らせるわけにもいかなかったから、何も言うことが出来なかった。月子の鈴を転がすような声が耳に心地好い。
更に時間が経ったが月子はどれを買おうか今だに迷っているらしい。どちらも月子に似合いそうだからどちらも買えばいいのにとも思わないでもなかったが、学生には少々優しくないお値段だったのでそれも叶わない。やけに口が達者な女性店員は、あの手この手で月子にアクセサリーを買わせようとしているように見えて、何だかそれが哉太の目には酷く滑稽に映った。
「哉太ぁ……」
口を挟む隙間を与えない女性店員マシンガントークに気圧されたのか、月子は半ば涙目になって見つめてくる。反則だ、と無意識に赤くなる頬を持て余しながら近付いてみると、ずい、と二種類のアクセサリーを突き付けられた。どちらにするか決めて欲しい、ということらしい。ひとつは可愛らしい天使をあしらったシルバーアクセサリー。もうひとつは同じようなシルバーアクセサリーだったが、ひとつめとは違い、あしらわれているのは小さな宝石の様な小さな石である。その石の分だけ値段も少しだけ高かったのだが、どうみてもそちらのほうが月子に似合っていた。
「こっちのがいーんじゃねえの?」
「どちらも彼女さんにとてもよくお似合いですけどねえ」
「………」
月子は暫くふたつを見比べていたが、やがて漸く決めたのだろう、最終的に哉太が選んだ方を指差して、こちらをください、と小さな声で呟いた。
「こちらでよろしいんですか?」
「はい…あの、哉太が…えっと、彼が選んでくれたのが、いいと思って……」
店員のそうですね、と笑う声を聞きながら哉太は体温が急上昇していくのを感じた。当の月子はそんな哉太の様子には気が付いていないのだろう、恥ずかしそうに、けれどもとても嬉しそうに笑っている。










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