やっぱり料理とか出来た方がいいのかなあ。
ぼりぼりと菓子類を絶え間無く口元に運びながらそうぽつりと零した月子に、同じようにばりぼりとポテトチップスを食べていた犬飼は伸ばしていた指先の動きを止めた。今、こいつなんて言った?そんな犬飼の動作に全く気付いていないのか、はたまた気付いていて無視しているのか、月子は相変わらず菓子を口に運んでいる。あっ、これおいしーい!沢山食べちゃお。目を付けたのはどうやら新発売のイチゴチョコレートらしい。犬飼の分すら食べ尽くさんとする勢いでチョコレートを口に放り込んでいく。そのチョコレートは犬飼も地味に楽しみにしていたので、全部食べるなと言いたかったけれども、先程の言葉が耳の奥で谺して指先が動かない。
月子の壊滅的な料理の腕は周知の事実だ。料理本通りに作っている筈なのに地球外生命体みたいなよく分からないものを生み出す。お茶や珈琲を入れたら何故かめちゃくちゃ渋い。それは恐らくいや十中八九ある幼馴染みのせいだと犬飼は思っている。笑顔の裏で何考えているか分からないあの幼馴染みがでろでろに甘やかしているから、一向に月子の料理の腕は上達しないのだ。しかも本人もそれでいいと思っている節があったから余計に始末におえない…と思っていた矢先にあの台詞である。まさか彼女の口からそのような言葉が出てくるだなんて天変地異の前触れだろうか。
「あー…、一応聞いてやるけどなんでいきなりそんなこと言い出したんだよ。お前今までそんなこと言わなかったじゃん」
「え?えっと、まあそれはね」
「何だよ、歯切れ悪いな」
「……誰にも秘密にしてくれる?」
「いいけど…なに、そんな重要なのかよ」
「………重要っていうか、す、好きなひとにはやっぱり美味しいもの、食べてもらいたいじゃない…」
「…………は」
「あのひと、いつもお茶飲んでるから、お茶くらいのは美味しいのいれたいし…まずくても全部飲んでくれるしお代わりもしてくれるけど、やっぱり…」
薔薇のように顔を真っ赤にしながらごにょごにょ呟く月子に何と声をかけたらいいか分からないまま、犬飼は黙ってその様子を見詰めていた。何だか惚気られた気がしなくもないが、本人は至って真面目らしい。どこか、身体の奥の奥で何かが壊れる音を聞いたような気がしたけれどそれもきっと錯覚に違いない。そうだなあ、やっぱりお茶くらいうまくいれられたほうがいいんじゃないか。意趣返しに呟けば月子は何かを決意した顔で頷く。
「じゃあ犬飼くん!毒味役お願いします!」
「はあ!?毒いれるのかよ?!つーかなんで俺?!」
「だってー!こんなこと頼めるの犬飼くんしかいないし…駄目?」
「……はぁ、しゃーねえなあ」
「わあい!ありがとう!」
眼前の月子はとても嬉しそうに笑っている。知らないのだ、きっと。自分がその笑顔に滅法弱いことを。一生知らなくていいのだけども。
わたし頑張るね、意気込む彼女を見ながら犬飼も笑った。始まってもいなかったものが終わったのを感じながら。









//有海
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