問2.この時の主人公Aの心境として最も適切なものを選びなさい。
あまりにも見慣れた問いを目の前にして梓のシャーペンを動かす手が止まる。それを見て眼前の月子は分からないところでもあった?と首を傾げた。
「あ、いいえ…分からないというか迷っただけで」
「うん?どれとどれ?」
梓に与えられたのは思春期真っ盛り、恋する中学生が登場する物語文だった。自分よりも一回りも年上の女性に叶わない恋心を抱いて奮闘する主人公の姿は、いっそ清々しいほどで。その姿が現在の自分と重なり、梓はバレないように小さく溜息を吐いた。
月子は梓のクラスの国語を受け持つ教師だ。わかりやすい授業と何よりもその親しみやすさから生徒たちより絶大な人気を誇る。見た目も女子大学生と言われても肯定してしまいそうな可憐さである。そんな月子と二人きりで補習だなんて倍率の高そうな権利を何故梓が獲得しえたかというと、月子が梓の所属する弓道部の顧問だったからだ。下心混じり、練習の後国語の問題を見てほしいという話に月子は二つ返事で頷いた。あっさり頷かれたものだから少しだけ淋しくなったのは秘密だ。
「2と3なんですけど」
「ああ、これとこれはね」
亜麻色の髪が近付いてふわり、柔らかな香りが鼻を擽る。
梓は月子が好きだ。どこが好きだとかどうして好きなのかだとかそういう時期はとっくに過ぎてしまった。気付けば残ったのは彼女を愛しく思う気持ちだけで、けれどもどんなに梓が好意を伝えようともそれがきちんとした形で受け取ってもらえたことは一度だってない。教師と生徒、という関係性から見れば当たり前なのかもしれなかったが、裏を返せば全く眼中にないということである。悔しいのか悲しいのか淋しいのか、今はもう分からなくなってしまった。ただ隣にいられることだけが嬉しい。
「……で、だからここは…、梓くん?聞いてる?」
「月子先生は、」
「へ?」
「読解とかすごく得意なのに、どうして僕の気持ちは分からないんでしょうね」
「……梓くん?」
「いえ、こっちの話です。それで、えっと、答えは2でしたっけ」
「あ、ああ、そうそう。もう一度言うからちゃんと聞いていてね。ここは…」
白い細い指先が問題用紙をなぞるのを梓は黙ったまま見つめていた。この問題のように彼女の気持ちも三択でわかるようになればいいのに、そうすればこんなに苦しくなることだってなかった。祈るように握りしめた指先がいつか彼女の手を掴むことがあるのだろうか。月子の柔らかな声を聞きながら今日もそんな夢を見る。






//有海
伊万里様へ。
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