窓の外をぼうっと眺めていると向かいに座った青空が、手が止まっていますよと窘めるように言った。どうせ同じ課題なんだから一緒にやろうぜ、と声を掛けたのは間違いなく犬飼だったけれど、それを今は少しだけ後悔している。何事もほどほどにをモットーに生きている犬飼にとって、青空のようになにもかもきっちり真っ直ぐにやることなど最初から出来やしなかったのだ。
だから時々思う。彼が所属する生徒会とは化け物の集まりなのではないのかと。それくらい自分とは掛け離れた存在なのだ、なんて言ったら同じ部活に所属する彼女は怒るだろうなあと考えながら青空の手元を見るとほとんど埋まっていてげんなりした。
「なんで青空はもうすぐ課題終了なわけ?意味わかんねー」
「申し訳ありませんが僕にはあんなに時間があったのにほとんど終わっていないあなたのほうが意味がわかりません」
「どう考えたってお前が早すぎんだよ!」
歴然とした差に心が折れそうになったので、潔く諦めることにした。課題提出〆切りにはまだまだ時間があるし、そもそも完璧超人みたいな人間と同じようにやろうという考えることの方が間違いだったのだ。
ちらりと青空を見ると澄んだ桜色の髪が視界を侵食した。そういえば弓道部の女神(と呼ぶと彼女は非常に困ったような顔をするので、犬飼はあまりその呼び方で呼ばない)はこの色を見ると無意識のうちに酷く安心するのだと言っていた。まあ、確かに分からんでもないが、そこには間違いなく恋人の贔屓目が入っていると思う。どうやらじっと見詰めすぎたらしい、青空が気味が悪そうに僕の顔に何か付いていますか、と尋ねた。
「目と鼻と口が付いてる」
「はったおしますよ」
「ははは、冗談だよジョーダン。いやな、お前とアイツがうまくいってるみたいでいいなあと思っただけだよ」
「……彼女が何か」
「なんでお前はアイツの話になるとそう過敏になるのかね…」
青空は何も言わなかった。無視しただけとも言える。もともと返事には期待していなかったので別に何とも思わない。
青空と何かあったんか、と尋ねたときのあの心底嬉しそうな表情を犬飼はまだ覚えている。感じたのは一友人としての喜びだ。今まで頑張ってきたのを見てきているからその感情もひとしおで――同時に感じた一抹の淋しさと悲しさなんてものは幻想だ。そうでなければ、自分は。
「何はともあれお前らがうまくいって嬉しいよ」
その気持ちに偽りはない。あなたにそんなことを言われるとは、なんか気持ち悪いですね。相変わらずの言葉に犬飼は瞼を下ろして柔らかく笑った。








//有海
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