これ、カイトくんに渡してください!差し出された封筒を何も言うことも出来ないまま取り敢えず受け取る。差し出してきた女生徒は顔を真っ赤にしたまま走り去ってしまった。まだ何も言ってないんだけど…小さく呟いた言葉を隣に並んでいたメイトは聞き取ったらしい。郵便屋さんご苦労、と揶揄したように言った。
「メイト、お前な…」
「今日で三通目だっけ?お前の兄人気あるよな。お前と違って」
「義兄弟だけど。あと一言余計」
「ほんっとうのことじゃねーの」
相手を見下すような、そんな笑顔を浮かべてメイトは口笛を吹くような口調で応えた。あながち間違ってもいないので、反論も出来ない。放課後、慰めてやるからカラオケ行こうぜ、ミクオも誘って。耳元で囁かれた言葉に曖昧に頷く。もうすぐ昼休みも終わる。それまでにはなんとかしたい。窓の外に見える青空は憎たらしいほどに澄んでいた。


「あれ、アッシュ。珍しいね。俺の教室まで来るなんて」
「郵便屋さんがお届けにあがりました」
「へ?」
「はい。本日三通目です」
「あ、あー…ありがとう?」
「なんで疑問形」
封筒を受けとったカイトは何だか複雑そうな顔をしていた。その表情の意味がよくわからなかったから何も突っ込まず、黙ったまま壁にもたれる。ひんやりとした壁は熱気で火照った体にはちょうどいい。蝉の絶え間無い叫び声に柄にもなく夏だなあと思った。
「顔が似てるのにこういうの貰うのってカイトだけだよな」
「えっ…アッシュも欲しいの」
「いや別にそういうわけじゃ。ただそう思っただけ」
「…アッシュは」
「うん?」
「好きな子とかいないの」
ちらりと視線を向けた先のプールはとても心地良さそうだった。その青さが、隣に並ぶ色と同じで眩しい。好きな子、ねえ。舌先で転がした名前は飴玉のように溶けて消える。言う日もきっとこないし、言うつもりもない。たいようみたいなひと。さあ、どうだろう。下ろした瞼の裏側でいつかの星が撥ねた。
「そういうの、よくわかんないし。カイトは」
「俺?俺、は」
「……?」
「あーあ。アッシュってさ。国語は得意なのに、こういうときだけ疎いよね」
「なんだよそれ」
「なんでもないよ」
遠くで蝉の鳴く声がしている。あやすように撫でる掌の感触を感じながらその流れに見を任せていた。
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