酔っ払って帰ってきた直獅を月子は何とか支えてリビングまで運んだ。本音を言えば寝室まで運びたかったのだが、リビングまでの道程で力が尽きた。いくら小柄だからといっても(正面きって口にすると、怒涛の如く反論されるのは高校時代と何も変わらない)彼は立派な成人男性なのだ。月子一人で運べる重さなどたかが知れている。
必死の思いでソファに寝かせた直獅がむずがるように鼻を鳴らして体を丸めた。新築祝いに二人で仲良く相談して購入したこのソファは、人一人が十分横になっても構わない広さではあったが、日頃から直獅の寝相の悪さを知っている月子はいつソファから落ちてしまうのではないかと気が気ではない。気持ち良さそうに寝息を立てるその顔にそっと指を這わせると、熱が集まっているのか何だか妙に温かかった。
「直獅さん、」
相手が寝ているのをいいことに、太陽を凝縮したような光を宿す髪に触れる。どこにいたって簡単に誰と知れるその髪が好きだった――いや、今も好きだ。ただ、恋情が愛情に変わっただけで。
愛情よりも恋情のほうが激しいと言ったのは誰だったか、今はもう遠い昔。けれども月子はそうとは思っていない。恋情が愛情に変わった今も、狂おしい程の感情を胸に隠している。でも、もしかしたら、彼にはとっくの昔にばれてしまっているのかもしれなかった。
「ん…つき、こ?」
「はい、月子です。飲み過ぎですよ直獅さん。二日酔いに悩まされたって知らないんですからね」
「んー……」
「もう、わかってないんだから…」
口調とは裏腹にその声は蕩けるように甘い。直獅が取り分け妻に甘いのは周知の事実だったが、逆もしかりだというのは意外と気付かれていない事実である。知られたところで、それを本人に教えてやるような妙に捩曲がった優しさを抱いている知り合いを、二人は持っていないのだが。
「つーき…こ…」
「はい?」
「あいしてる…ぞ…」
「そういうのは、酔っていないときに言って戴けたらもっと嬉しかったです」
それでも滲む喜色を隠しきれない声で呟いて、これまた相手が起きていないのをいいことに唇をそっと額に落とす。たいようみたいなひとは、ずっとわたしのたいようのままだ。きっとこれからもずっと。
微かな笑い声を残して月子は立ち上がった。酔い覚まし用の水でも用意しようと思いながら。





//有海
匿名様へ。
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