「それにしても」
隣に鷹介の気配を感じながら月子は口を開く。頭上に広がっているのは大小様々な星々である。それが人工的なものだと二人は理解していた。当たり前だ、ここはプラネタリウムなのだから。
近々開発する予定の新しい家庭用プラネタリウムの資料集めと称して鷹介と月子は少しだけ遠出してこのプラネタリウムを訪れていた。きちんとした仕事だから勿論諸々は経費で落ちる。
「ん?」
「皆が齷齪働いている中わたしたちはこんなのんびりプラネタリウムを見ているなんて、なんかズルをしている気分になりますね」
「いいんだよ、これも立派な仕事なんだし」
笑いながら鷹介はそういってそれから綺麗だな、と頭上を見上げながら感嘆の息をもらす。それに習って月子も頭上を見上げた。きらきらと輝く星々はたとえ人工的なものであったとしてもとても美しい。月子が望んだ永遠性を内包したまま今も輝き続ける。
その話を鷹介にしようと思ったのは何故だろう。星々の輝きにつられてしまったのか、結局何時になっても月子には分からないままだった。
「高校生の時にもこうやって皆で天体観測したことあるんですよ。弓道部の皆とちょっと遠出して。宮地くんなんか張り切っちゃって甘いお菓子を沢山用意してて。本当にそれ食べきれるのってくらい」
「…龍は甘いもの本当に好きだよな。よく太らないもんだ」
「あはは、そうですよね。本当に羨ましかったなあ。部員の一人が尋ねたら鍛え方が違うからって怒られてましたけど」
今も瞼の裏に蘇る光景があって。それは懐かしさを伴って時々現在を侵食する。彼との思い出は決して優しいものばかりではなかったけれど、とても美しい。きっと過去というものは良くも悪くも輝いて美しく見えるものなのだ。
隣の鷹介が何か言いかけて躊躇ったように一度口を閉じた。口元に浮かんでいるのは何もかも諦めたような、柔らかい笑み。
「月子ちゃんってさあ」
「……はい?」
「龍のこと、好きだろ?」

それは、忘れなければと何度も思い描いた心だった。


何を言ったらいいのか分からない。無意識に指先が震え始めている。何時からこの人は知っていたんだろう。何時からこの人は知らないふりをしていてくれたんだろう。彼に一番近いひと。彼に一番近いところにいながら、何もかも知らないふりをしていてくれた。皆が否定してかかるこの想いを、守ってくれていた。この人はそれが無理なくできる人なのだ。
不意に目の前が暗闇に覆われる。仄かに感じるのは大きく温かい――鷹介の掌だった。
「宮地さ」
「ごめんな」
「え?」
「泣かせるつもりじゃなかったんだ。ごめん。さっきのは、忘れて」
そこで漸く月子は自分が涙を流していることに気が付いた。悲しいことなんて何一つないはずなのに、どうして涙が出るんだろう。夜久、思い出しただれかのこえが鼓膜の裏側で反響して、目の前がくらくらする。わたし、なんだかどうしようもないひとみたいね。
「……泣いてません。わたし、泣いてませんから」
「…そうだね、月子ちゃんは、泣いてなかったね。俺のはやとちりかな」
それでも瞼の上に重ねられた温かい掌がどけられることはなかった。その優しさが苦しくて――何だかとても嬉しい。
「もう、わかんないんです。わたし。好きなのか、嫌いなのか。諦めたいのか、そうじゃないのか。でも、わたし」


鷹介は何も言わないままだった。








//有海
かなで様へ。ビタートラップの続きということで本当に続きにしてみましたが、もしやっぱり続きではない鷹介×月子の方がいい、となりましたらお手数をおかけしますが御一報下さい。
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