ざあざあと降り続く雨を窓ガラス越しに眺めながら藍は手に持った炭酸飲料のペットボトルに口をつけた。口の中で踊る感覚が心地好かったけれど、脳裏に浮かんだのは昼休みのやり取りである。お前さ、好きな奴とかいないの?顔だけはいいんだからさー。からかうように告げられた言葉を幾度となく反芻する。どの境界を持って好きと定義するのか、藍には分からない。ただ、気が付けばその存在を探しているのが恋だと言うなら、これは恋なのかもしれなかった。
「あーいっ」
「……真琴?」
「アンタまた炭酸飲んでるの?好きねえ…」
「いいじゃんか、うまいんだし!このしゅわしゅわ感が堪らないんだよな」
「太るわよ」
「ぐっ…俺が一番気にしてることを言い当ておってからに…」
よく降るわねえと半ばぼやきのように呟いて、真琴は制服のスカートを靡かせて藍の隣に並んだ。放課後の誰もいない教室は思ったよりも静かで、降り注ぐ雨の音はさながらBGMである。
連日降り注ぐ雨のせいで雨漏りを始めてしまった弓道場の補修のため、今日の部活は休みになった。最早生活サイクルの一部となっている部活が欠けてしまうことはなかなかに調子が狂うものだ。隣に並んでいる真琴はどう感じているのだろう、横目でそれとなく確認してみると予想外に視線が絡んだものだから思わず心臓が跳ねた。
「?藍、どうかした?」
「えっ、あっ、いや、別に…」
「何よ、歯切れが悪いわね」
「ほ、ほんとに何でもないって!」
「……変な藍」

やっぱり、この表情が一番すきだなあ、と思った。


真琴の呆れたように目を細めて笑う仕種が藍は一等好きだった。他の誰かに話したことなんて一度もない(言う必要性も感じなかったし、何より恥ずかしいのだ)。
この気持ちを恋と呼ぶのだろうか。やっぱり藍には分からないままだった。けれども真琴が自分以外の誰かの隣で笑っているのは見たくなかった。我が儘でも言われてもいい、真琴が笑うのは自分の隣であってほしいと願う。その願い以外にもしかしたら自分は何も持ち合わせていないのかもしれない。

たとえば。いつか離れる日がくるのだとしても。
それまでは。
どうか。


ざあざあと降り続く雨を隣で無言で眺める真琴を見つめながら、藍は小さく笑ってもう一度ペットボトルに口を付けた。しゅわしゅわと弾ける泡が心地良い。
「それ何味?」
「ブルーハワイ」
「だからグロテスクな色してるのね」
「せめて目に痛い蛍光色って言ってくれよ…」
口の中であっさりと消えてなくなる泡のような恋にはならなければいい、ひっそりと祈った願いは雨に隠れる。










//有海
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