必要ないと思っていた。例え手に入れたとしても其れは自分以外の何にも侵されない絶対不可侵のものだと思っていた。其れなのにどうしてだろう、当たり前の幸せは君がいないと完成しないものに変わってしまった。誰かの為を思って重ねる嘘を、偽りを、何時だったか君は幸せと呼んだ。其処に何もなくとも、其処から何も生まれなくとも、その手が温かいのなら、その手が優しいのなら。
返事のない名前を呼ぶのと、先のない未来を望むのと、一体どちらの方が虚しいのだろう。どうしたって君が泣くなら、いっそのこと初めから何もなかったら良かったのだ。繋いだ手の温もりも、君の微笑んだ顔も、君と同じ形をした幸せも、君の泣き顔も、初めから全部なければ。
置いていく位なら連れて行けばいいのか、果たしてそんな事が出来るはずもなかった。忘れて欲しいというのも忘れて欲しくないというのも自分のエゴでしかなかった。押し付けるのは簡単で、きっと君は簡単に受け入れると思うのだ。君はいつだって呆れる程に優しいから。それを享受するのは簡単だからこそ、享受してはいけないのだと分かっていた。もう終わりにしよう。その手を離す、君の体温が消えてなくなる前に。
嘘を重ね君の心を偽り続ける人間はもういなくなる。自分という存在がいない世界で君が幸せであればいいと思った。

「……つきこ、ごめんな。ありがとう……さよなら」



そろそろさよなら



//有海
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