窓から差し込む鈍くも鮮やかな光と、一人暮らしの家にいては絶対に耳にすることのない音を平助は確かに耳にして、それまで微睡みの淵に横たわっていた意識を無理矢理覚醒させる。トントンと流れてくるのはリズミカルな包丁の音か。勢いに流されてつい告白を承諾してしまった彼女と別れたのはほんの一週間前のことで、まだ記憶に新しい。つまり現在の自分には朝食を作ってくれるような所謂彼女と呼ばれる存在は居ない筈なのである。現実的に考えれば。
緊張しているのか妙に震えてしまう指先でなんとか部屋のドアノブを回す。平助の部屋とリビングを繋ぐ廊下は短い。そのため廊下を歩いている間に心の準備をするなんて高等技術を使うことは不可能だ。なんとか高まる気持ちを落ち着かせようと二三度深く息を吸っては吐いて指先の震えを止める。雑誌などでは陽だまりのような笑顔と評される笑顔は(平助は現在雑誌モデルをして生計を立てているのである)作った笑顔のように固まっていて、その場にカメラマンがいたら即座に駄目出しをされてしまうようなものだった。同じモデルで友人の新八や左之助がいたら大爆笑されているに違いない。
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