そうやってアイツがしあわせならなんでもよかったんだ。
「ったく、なぁんて顔してんだよ」
隣に座る哉太が呆れたようにそう声を掛ける。何時もなら逆の立場なんだろう、けれどもそれを指摘する気力も残っていない。窓から覗く桜の巨木の下で永遠の象徴を冠した名前を持った少女が静かに寝息を立てている。本来ならば誰よりも先に駆け寄って傍にいる筈なのにそれをしないのは、隣によく見知った存在がいるからなのか。あの子の亜麻色に触れる掌があまりにも優しかったから、何も言うことが出来ない。
『忘れていたことは事実で、思い出したことも、また事実だから。でももう思い出さないよ。だって忘れないから。これからはずっと覚えてる。すきってそういうことでしょ?』
あの子の声が耳に留まる。それは愛しいこえで、だからこそ手を離さなければならないと分かっていた。本当は知っているのだ。彼なら大丈夫だってことくらい。
「女の方が早く大人になるんだよな…」
もうすぐ初めて彼に出逢った季節がやってくる。それまでには彼の前でもうまく笑えることができるように。
不意に愛しい声が聞こえた気がしたけれど、それも幻だったのですぐに消えた。





◎しあわせであるように。






006-しあわせにならないで/東月錫也
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