幼い頃からずっと憧れていた。すらりとした立ち姿だとか、どんなことにも屈しない強さを内包した眸だとか。見るひとを安心させるような笑顔だとか、暗闇から引っ張りあげてくれる力強い言葉だとか。そんなことを言うと彼はいつも困ったように俺はそんな人間じゃないよって笑う。(そんな出来た人間じゃない。何時も自分のことしか考えていない、優しくもなんともない最悪な奴だよ)
アイツを暗闇に落としたのは紛れも無く彼だったし、そのことについては許せないと頭の片隅で確かに思っている。アイツの笑顔を守ってきた自分にとって“アイツを泣かせる”という行為は何よりも許し難いことなのだから。
けれども――喧嘩を教えてくれた左手で優しさの意味を教えてくれた。傷付けるための強さではなく、守るための強さを教えてくれた。そんなひとが優しくない筈がないのだ。彼の右手を見る度に新しい傷に気が付く。誰かを傷付けるために付いた傷ではなくて、誰かを――アイツを守るために付いた、傷。それを指摘すればまた彼は困ったように笑うんだろう。
(全く、敵わない、よなあ)
きっと彼は何時だって自分の憧れであり続ける。優しさを教えてくれたひとだから。
「不知火先輩!」
呼び掛けた光を孕んだ名前は神の絶対性によく似ていた。






◎そのやさしさのそばで微睡む




003-尊敬なんかしていない/七海哉太
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