名前を呼ばれた気がしてゆっくりと目を開ける。目に入ったのは見慣れた天井だった。
「千鶴ちゃん!!」
起き上がると同時に温かい何かに勢いよく抱きつかれる。ふわりと甘い匂いが鼻を掠めた。
「お千ちゃん…?それに風間さんも……」
「しんっぱいしたんだからね!!」
事実を認識する前に大きな声によって妨げられた。まくし立てられた情報を咀嚼すると、どうやら千鶴はここ7日ほどこんこんと眠り続けていたらしい。小さく謝りながら視線をお千に戻すと、涙目になったお千が見えた。
「だって千鶴ちゃんあんなことがあったばかりだから…」
「お千」
風間の声が遮る。千鶴は其れに対して柔らかく微笑んだ。
「大丈夫。もう大丈夫だから」






『俺はもう死んでる。千鶴の目の前で灰になってさ…覚えてるだろ?』
『嫌だよ平助くん、私、知りたくない』
平助の柔らかい笑顔が痛かった。だから知りたくなかったのに。
『千鶴、俺の目を見て』
『嫌、嫌…』
『千鶴!!』
平助の大きな声に千鶴はビクリと一度大きく体を震わせて、ぎゅうと力強く抱き締めた。平助も小さく笑いながら抱きしめ返す。『俺、千鶴がいいならずっとこのままでもいい。でもさ、其れは千鶴にとっての幸せじゃないだろ?千鶴には未来がある。俺には見れなかった未来を千鶴に見てほしい。俺の代わりに』
『……それは平助くんの幸せ?』
『うん。そんで千鶴の幸せでもある。俺は千鶴に笑ってて欲しいんだ。こんな紛い物の空の下じゃなくて、本物の空の下で』
『……私、泣いちゃうかもしれないよ』
『偶にはいいよ。泣かないことが強さじゃねぇから。でもさこれだけは忘れないでくれな。俺は何時だって千鶴の傍にいるって』
顔を上げる。もう見れないかもしれないその柔らかな優しい笑顔をその瞳に焼き付ける為に。
『うん、うん。私、頑張るから。最初は泣いちゃうかもしれないけど、平助くんの為に笑えるようになるから。平助くんが傍にいてくれるなら私、いくらだって頑張れるよ…!!』
『うん、ありがと千鶴。俺さ、何時だってお前のことが――――――』







「千鶴ちゃん?」
お千が困惑したように声を掛けてくる。大丈夫だよ、と笑ってみせてから空を見上げた。眩しい程の澄んだ空。平助がその下で笑っていて欲しいと望んだ本物の空だった。明るい、平助の笑顔のような空だった。
「私も何時だって大好きだよ、平助くん」
微かに平助の笑い声が聴こえた、そんな気がした。








090908/有海.Fin
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