目を開けたらそこはは一面が色とりどりの花に囲まれて、とても幻想的な世界を創り出していた。ぼんやける思考回路では何も考えられない。此処は一体何処なんだろう。此処に彼は居るんだろうか。居ないのならばそんな世界に意味はない。
「平助、くん」
小さく名前を呼んでみる。世界で一番いちばんだいすきなひと。このよでいちばんいとしいひと。何時までも知らないままで居られたら、きっと幸せなんだろう。
「千鶴、」
不意に名前を呼ばれた。慌てて振り返ると其れに呼応するかのように花々が舞い上がる。なんて幻想的な風景。それなのにどうしてこんなに悲しいの。
「千鶴、泣いてんのか?」
「なっ、泣いてないよ!!泣いてないもの!!」
「あはは!!そんな顔で言われたって説得力ないっつーの!!」
それは愛しくて優しくて泣きたいほどに大切な日々の名残。もう何処にだって行かないでね。優しい優しい思い出だけ残して独り遠くに行ったりしないでね。ずっとずっと傍にいてね。
この世界でならどんな願いだって叶う気がして、勢いよく抱き付いてみた。彼は少し面食らったようだったけれど、何時ものように穏やかに笑って抱き締め返してみせた。嗚呼ずっとこの温もりだけが欲しかった。
「寂しかっ、たよ、平助くん」
「……うん、ごめんな」
その言葉に含まれた意味に気付かない――気付かない振りをしたまま静かに目を瞑る。風が優しく頬を撫でた。









090908/有海
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