僕を信じるのは、そんなにむつかしかったですか?
「何時まで待たせる気だ」
僅かに苛立ちを滲ませた声で風間は呟く。目の前の少女は大げさにびくりと体を震わせて目を伏せた。故に気付かなかったのだろう、その瞳が限りなく優しい物であったということを。
何時まで、待たせるのか、その言葉に嘘偽りはない。少女が全てを失ってから、己が少女に手を差し伸べてから、短くない時間が経過している。風間は気が長い方ではない。出来ることなら少女の気持ちが落ち着くまで待ってやりたかったのだ。これは嘘ではない。不知火辺りは決して信じようとはしなかったのが些か不満な点ではある。
人目を忍んで泣くくらいなら己の前で、傍で、隣で泣けばいい。無理をしてまで笑えとも言わない。耐えろとも言わない。そう思って伸ばした手は未だ掴まれることはなかった。かといって払われることもない。宙ぶらりんな状態がお互いに一番辛い状態であるということを、現実から目を背けてしまっている少女は気付かないのだろう、そしてきっとこのまま。
「風間さ、」
「貴様はまた俺が居ないところで泣くのか」
愛の言葉はまだ紡げない。紡いだところで何も起こらないことを風間は知っていたからだ。
「言っただろう、俺の前で泣けばいい、と」
「私、泣くなんて、そんな、」
「・・・俺を信じるのはそんなに難しいか。俺の手を取るのはそんなに難しいか」
「・・・・・っ」
少女の瞳が揺れる。滴が零れ落ちそうになるのを見止めて、その目元にそっと口付けた。この少しでも伝わればいい。全てを失ったわけではないのだということを。
「忘れろとは言わん。泣くなとも笑えとも言わん。ただ俺を信じろ。俺を信じて俺の前で泣けばいい。受け止めてやる。だから、」
「風間さん、」
「もう一人で泣くな」

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