夢を見ました。いつかの、そう、遠くない未来の夢を見ました。悲しませたくないのに泣かせたくないのに離れたくないのに忘れたくないのに、僕の拙い汚れてしまっただけの掌は、君の指先に触れることなく離れていきました。体が引っ張られて此処じゃない何処か遠く、君のいないであろうその場所へ引っ張られて行く様な、気持ちが悪い浮遊感だけが体を包んでいます。悲しませたくないのは嘘じゃありません。泣かせたくないのも嘘じゃありません。離れたくないのも、忘れたくないのも、全部が全部嘘なんかじゃありません。でも、それでも、混濁する意識の中、最後に見たのは君の優しい、一等好きな、陽だまりの様な、優しくて優しくて涙が零れ落ちそうになるほどの温かい笑顔だったから、たとえば僕がこの世界から本当に消えることになっても、君が笑っていてくれるなら、幸せそうに笑っていてくれるなら、僕のことなんか忘れちゃっていても、構わないのでした。
「総司さん」
その声で一気に周りの世界が明るくなります。僕を取り囲む闇という闇全てが名残惜しそうに纏わりついて、こう耳に囁くのです、此処は寂しくない、辛くない、悲しくない。此処にいたらいい、何もかも忘れて此処にいたらいいよ、ねぇ。それもいいかもしれません、何も考えずに眠っていられるなら、この身に巣食う病も、いつか君の手を握っていることが出来なくなるという恐怖から逃れて眠っていられたらどんなに幸せだろうと思うのです。でも、幸せかもしれないけれど、闇を払いながら僕は考えます。幸せかもしれないけど、憂うこともないのかもしれないけれど、恐怖に震えることもないのかもしれないのだけれど、この闇の中には君はいないから、僕を覆い食らい尽くそうとするこの闇の中に君という存在はいないから、それならば、この世界にいる必要性はどこにも、そう、どこにも存在してなんかいやしないのでした。
「総司さん」
君が僕を呼ぶ声がします。闇はもう遙か遠く、何処かに行ってしまったようで、僕は少しだけ残念な気持ちになりましたが、それ以上に君のいる世界に戻れることが嬉しくて、ただただ嬉しくて、闇のことなど、記憶の中から消してしまうのでした。
「お早うございます、総司さん」
「……うん、お早う、千鶴」

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