あの時から何時だって後悔してばかりだった。貴女を殺めたこの右の掌が、貴女を愛しんだこの左の掌が、毎夜毎に自分を苛むのだ。どうしてあの時貴女の手を取れなかったのだろう、どうして貴女の優しい笑顔を守れなかったのだろう、暗闇の中自問自答を繰り返してばかりで答えは見つからない。本当は気付いていたのだ。姉への贖罪だと言いながら、姉への贖いだと言いながら、本当は自分が傷付きたくないだけだったのだと。姉を守れなかったという罰に戦いて、ただただ許されたかっただけなのだと。

悟浄 しあわせになってください、ね


貴女の最期の言葉が、最期の願いが、最期の祈りが、脳裏に焼き付いて離れない。どれだけ貴女の名前を呼んでも、どんなに貴女への想いを呟いても、どんなに、どんなに、貴女のことを恋焦がれても、もう二度と貴女には逢えないのだ。馬鹿だ、愚かだ、世界中の罵詈雑言を集めてもまだ足りない、まだ償えない、まだ許されない。いや、許されないのではなく、許されたくないのだ。貴女は優しいから、世界中全ての優しさの光を集めて解いて人型にした様な人だったから、そんな陽だまりの様な、春の木漏れ日の様な暖かさを持った人だったから、そんな存在だったから、きっと笑って、仕方ないなあって笑って許してしまうのだろう。でも、それでは駄目なのだ。それでは、それでは、それでは、

ねぇ悟浄 あなたのては、あたたかいですね

温かいのはこの掌ではなく、貴女の心だった。そう言いたかったのに、その機会はもう永遠に訪れやしない。
混濁する意識の中、あの頃の一番綺麗だった、一番優しかった思い出を抱いて眠る。薄汚れた自分にはきっと貴女との来世だなんて用意されていない。でももしも、もしも、もう一度貴女に逢えたら。もう一度貴女の傍で息をして生きていくことが許されるなら、今度は必ず、何があっても貴女を護ろう。貴女が寂しくないように、貴女が泣かなくていいように、貴女が傷付き苦しまなくてもいいように、たとえば貴女が自分のことなど好きにならなくても、今度こそ絶対に何があっても。そうして貴女が誰かに恋をした時、そっと応援できるような、そんな立ち位置で。


//有海
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