薫が学校に行っている間、母親はそっと薫の部屋へ入り込んだ。年頃の男子にしては整理整頓されすぎた部屋が其処には無言で存在している。まるで氷の部屋だと母親は思った。他人を拒絶する冷たさを持った。
「何よ……」
こんな鏡があるから薫はおかしくなったのだ。こんな鏡さえなければ薫は前の薫に戻ってくれる。きっと前の薫になる。そうだ。そうに違いない。
「この鏡さえなければ……」
触れた表面はどこか温かいような気がした。









ふっと我に返ると既に皆帰り支度をしている所だった。どうやら気付かぬうちに授業は終わっていたらしい。
よく分からないが何故か嫌な予感がする。ざわざわと落ち着かない。脳裏に千鶴が浮かんだ。何故だろう。千鶴に何かあったのだろうか。
いやそれはないだろう、と薫は頭を振る。千鶴が存在しているのは鏡の向こうだ。何かがあるわけではない。そうに、違いない、のだ。
「ちょ、南雲くん!?」
急に走り出した薫を見て委員長が素っ頓狂な声をあげたが気にしてなどいられない。脳裏に千鶴の顔が浮かんでは消え、浮かんでは消え、声が、薫と呼ぶその声が耳の奥で反響する。
「ち、づる……っ!!」
向かう先は分かっていた。あの家だ。










091010/有海
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