薫は一人グループの輪から離れた場所に居た。手にとっているのは薄い桃色の髪飾りである。小さな桜があしらってある。千鶴によく似合う物だと思った。
「買うの?」
ひょこっと後ろから委員長が顔を出す。眼鏡の向こうの瞳は笑っていた。
「お前には関係ない」
「ま、冷たい」
千鶴が今此処に居たら幸せだろう、と薫は思った。委員長には失礼だったが隣に並ぶのはやっぱり千鶴がいい。顔がよく似ていたとしても千鶴は自分とは違う存在なのだ。自分を真っ直ぐ見てくれる。自分だけを見ていてくれる。其れが何よりも嬉しい。
「あれ、買わないの」
そっと 髪飾りを置いた薫を見て委員長が不思議そうな顔をした。其れを後目に薫は歩き出す。
買ったとしても意味がないのだ。千鶴は存在しない。あの鏡の向こうにしか存在していない。例えどんなに千鶴を好いていたとしても、触れられない。熱は伝わっても声は伝わっても。
もし傍に千鶴が居てくれたら、と有り得もしないことを考えてみる。どれだけ自分は幸せだろう。幸せになれるだろう。どんなに窮屈なこの世界でも息が出来るようになるのだろう。
無駄なことだ、と薫は小さく頭を振った。考えたとしても意味がないのだ。店の窓から見えた空は澄んでいる。








091004/有海
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