修学旅行の地。そこでも薫は独りだった。
だって千鶴が居なくちゃ意味がない。空だって蒼く見えないし、海だって青くない。そう千鶴が居なくちゃ。
自分はおかしくなってしったのだろうか。昔はこんなんじゃなかった。千鶴に出会う前は何にも依存しなくとも生きていた。独りで立っていられていた。それなのにこの様は何だ。たった一人いないだけでこうも弱くなってしまったのか。
はぁと小さく溜め息を吐いた時、にゅっと眼前に顔が現れた。驚いて思わず後ずさってしまう。現れたのは薫のクラスの委員長だった。そういえばそろそろ点呼の時間だろうか。
「南雲く―ん。何やってるのかにゃ―?そろそろ点呼だっての」
「分かってる。今戻るとこだ」
委員長は可笑しそうに笑ってからはいはい、そう言って背を向ける。不意に薫はクラスの中ではマシな奴だと思っているこの女に話を聞いてもらいたくなった。だから聞こえるか聞こえないかの瀬戸際で声を掛けてみる。気付かなかったらそれでよかった。
「好きになった人が存在しないかもしれなかったらアンタならどうする」
前を行く委員長が足を止める。そしてゆっくり振り返った。目は笑っていなかった。「どうしようもないね。だって好きなんでしょ?」
なんでもないことのように委員長はそう答える。歌うように諭すようにたゆたうように。
「好きなら仕方ないよ。どうすることも出来ない。相手が化け物だろうが幽霊だろうが存在しないものだろうが何だろうが、受け入れるしかない。そうでしょ?南雲薫くん」
「……そうだな」
「南雲くんも人の子なんだね」
「……何だよそれ」
窓ガラスに映る顔を見る。それは鏡に映る少女とよく似た、それでいて少女じゃない紛れもない自分だった。
例え千鶴が存在しないとしても、己が見ている幻想だとしても構わない。だって好きなんだから。
修学旅行終了まで後三日。




090827/有海
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