来週は修学旅行である。高校のものともなれば皆浮き足立つものなのだろうが、生憎薫はその正反対だった。約一週間。約一週間だ。その永遠とも取れる期間の間、薫は千鶴との連絡の手段の一切を絶たれる。それが何よりも苦痛に感じられた。
千鶴が映るのは薫の部屋にあるその姿見だけである。他のどんな鏡を見ても千鶴の姿は映らない。千鶴によく似た薫自身が映るのみだ。どういった仕組みであるのか、そんなこと薫にはさっぱり分からない。ただ其処に千鶴が居るという、確かに存在しているという事実さえあれば良かった。
参考書から顔を上げ振り返って鏡を見る。薫が参考書を読んでいたからであろうか、千鶴も本を読んでいた。題名は見えない。
鏡の中の千鶴は薫と殆ど似た様な動作をする。薫が欠伸をすれば千鶴も小さく欠伸をするし、今の様に薫が本を読めば千鶴も本を読む。何だか少し気恥ずかしい。そう思いながら参考書を閉じて鏡に近付く。そっと鏡に手を当てれば、千鶴も本を閉じて鏡に手を当てた。
「もうすぐで修学旅行なんだってね。楽しんで来てね」
千鶴はそう言って笑う。つきりと胸が痛んだ。
「……千鶴も一緒に来れればいいのに」
我が儘だとは痛いほど分かっていた。ほらだって、千鶴が切ない顔をする。
「薫のお土産のお話楽しみにしてるから。ね?」
いっそのこと千鶴の存在も何もかも自分が見ている夢であればいい。そうすればこの妙な気持ちだって消し去ってしまえるのに、千鶴がまるで生きているみたいに笑うから。
「ね、薫」
―――まるで、本当に、存在しているみたいに笑う、から。
「……分かったよ」
少しくらいの空白なら我慢してみようと思った。重ね合わせた手が熱を帯びた。





090804/有海
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