「それ」に気付いたのは、自分が小学校に上がってすぐの事だった。
入学祝いにと親から部屋に置かれた姿見に映る自分ではない、自分にとてもよく似ている誰か。自分が眉を寄せても鏡の中の「その子」は困ったように微笑むだけ。
最初は自分の見間違えだと思った。父や母に相談しても笑って或いは気味悪そうにして取り合ってくれなかったし、学校の低俗な奴らには話す気さえ起きなかった。
何か害があるわけではない。だからほうっておいた。彼女は気付けば其処にいて、苛々することもあったけれど、救われていたのも事実だ。

鏡越しに手を触れ合わせると会話出来ると気付いたのは、中学生に上がってからだった。
「は、初めまして、かな」
「……初めましてって気がしないけど」
「私、千鶴。あなたは?」
「……薫」
「薫…素敵な名前だね」
友人と呼べる存在がまともに居なかった薫にとって、自分にしか見えない鏡越しの千鶴という存在は言わば一種の救いだった。周りの低俗な奴らとは違う、薫の痛みを悲しみを苦しみを喜びをまるで己のものであるかのように感じてくれる、そんなひかりとおなじやさしさ。
だからこれは自分だけの宝物のようなとっておきの秘密。
「お帰りなさい、薫。学校どうだった?」
「ただいま、千鶴。相変わらずつまらなかったよ」
「もう…っ。薫ってばそればっかりなんだから」




07031/有海
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