「おやまあ。随分と楽しそうなことをしているじゃないか、え?」
時雨はその長い舌でぺろりと唇を舐めた。その舌は血のように赤い。
「時雨、貴様、これは、千鶴が、千鶴、千鶴……!!」
もう人間などになりたいなどと言わないからどうかもう一度目を覚ましてよ。もう一度笑ってみせてよ。もう一度だけ名前を呼んで、よ。
「何を悲しむことがあるんだい?たかが人間一人じゃないか」
時雨の瞳が怪しく光る。
「村の人間を先導するのは楽だったなあ。村人を殺して回る妖と仲の良い人間を教えてあげただけでこうなのだからねぇ。人間とはなんと愚かで下等な生き物なのか!!あはははは!!愉しいね総司!!愉しいね!!」
「時雨貴様ぁあぁぁあぁ!!」
心底愉快そうな楽しそうな嗤い声が森に響く。総司が怒りを露わにするも時雨は全く動じない。寧ろより楽しそうに嗤うだけだ。
「総司も総司だよ。妖という崇高なる生き物が人間という愚かで下等な生き物になどなれるわけないだろう!?あはははは!!愉しかったよ!!あぁ愉しかった!!有難うね総司!!他の奴はもうあたしの言うことなど聞かないからね。久し振りだったよ!!此処まですんなり事が運んだのは!!あっはははは!!」
「殺してやる!!お前なんか僕が殺してやる…!!」
「殺す?なんと素敵な言葉!!やれるものならやってごらん、おちびちゃん!?」







嗤い声が森の奥へと消えて行く。力では敵わない。知恵でも敵わない。そうして時雨を殺すこともその声を追うことも出来ずにただその愛しいその柔らかな体を抱き締めた。赤い香りに混じって彼女の優しい香りがした。
「ごめん、千鶴、好きだよ、本当に好きだったんだ、ごめん千鶴、愛してる、千鶴、ごめ」
もう声は聞こえない。脳裏にはあの笑顔が蘇った。
『私には総司さんが居てくれるだけで幸せですよ………』









トワイライト・トワイライト
(君の声はもう何処にもない。ねぇ、どうすればよかった?愛してたんだ。愛してるんだ。僕が人間に生まれていたら幸せになれたのかな。嗚呼人間になりたかったな。否、君と幸せになりたかった、な)








090923/有海.Fin
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -