珍しく月の見えない夜だった。ふらふらと覚束ない足取りで総司は何時もの場所へと向かう。
時雨の言う通り十人**した。十人**た。だから自分はもう人間だ。彼女と同じ人間だ。もう何も恐れることなどない。そうだ、何を恐れることがある。彼女に触れることも共に生きることさえも、何も恐れなくていいのだ。
「ちづ、る」
視界が開ける。相変わらず月は見えなかったけれど、其処には月に代わるものが存在しているからそれでよかった。




筈だった。




「………え?」
噎せかえるようなその香りに総司は何も出来ずにただその場に立ち尽くす。*飛沫。飛散。最期の言の葉。もう触れられない。もう届かない。もう、貴女には。
『私は総司さんが傍に居て下さるだけで幸せですよ』
「う、ぁ、あぁあぁぁあぁ!!」
その腕に掻き抱いた体躯はもう温もりなど微塵もなく、ただ奈落の冷たさがあるだけだった。違う、自分はこんなものが欲しかったわけじゃない。自分が欲しかったのは彼女と共にある未来だ。彼女の一番近くで彼女の隣で、同じ存在として笑っていられる、そんな温かい未来だ。
それなのに、自分は、一体、どうして、
「しぐ、時雨!!」
くすくすと背後から微かな笑い声が聞こえてきた。その声を総司は知っている。嘗て聞くだけで頼もしかった、今は憎くて憎くて堪らないその、少しだけ高い、声。その腕にもう二度と動くこと無い愛おしい人を抱き締めて総司は絶叫した。
「出て来い時雨!!居るんだろ!?時雨!!」

くすくすくすくす。笑い声は止まない。










090923/有海
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