全てが黒だった。白は無かった。全てが全て黒だった。その中に一対の満月が光る。何かを探すように何かを狙うようにゆっくり、それでいて的確に左右に動く。
不意に何処からか足音が聞こえてきた。話し声も確かに聞こえる。一対の満月が糸のように細くなった。
「鬼、まだ見つかってないんだろ?」
「あぁ。鬼の息子はこの村から出て行ったようだがな」
「娘の方はしぶといよなぁ。俺だったら死んでるぜ」
「あっはっは!!違いない!!」
人間が鬼を語るな。人間なんかに鬼という存在を理解出来る筈がない。そして何よりも赦せないのは。赦せないのは、罪のない優しく健気で光のような彼女を鬼と呼び虐げることだ。彼女が一体何をしたのだと言うのだ。何もしていないではないか!!何が鬼だ。許さない許さない許さない。千鶴は自分が守る。何があったって自分が守るのだ。千鶴の一番近くで千鶴と同じ「人間」という存在で。だからお前たちは、
「……死をもって詫びろ」
「え?」
鈍い音。血飛沫。飛散。最後の言の葉。見られてはいけない。知られてはいけない。人間になるために。千鶴と同じになるために。
『人間を**して**るんだ。そうだね、お前はまだ幼いから十人程で大丈夫だろうさ』
「ひぃ……!!」
「にっ、逃げ……!!」
逃がしてはならない。逃がしてはまた千鶴が傷付く。あの優しい娘が泣いてしまう。自分が守る。何が何でも護る守る護る守る護るのだ!!
「こいつっ……!!鬼の娘と一緒にいる……!?」
「千鶴を鬼と呼ぶな!!」



ふと見上げた月は赤く染まっていた。
「大丈夫だよ千鶴。僕が守るからね」
見下ろした手も赤く染まっていた。他にどうすればよかった?






090922/有海
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