静寂が包む夜。冷たい満月だけが見ていた。
「総司さん…?」
隣に座る千鶴が心配そうな声をあげる。対する総司はぼんやりと空に向けていた視線を千鶴に向けた。どこか澱んだ其れに千鶴は言いようのない不安を感じる。此処最近総司は何時もこうだった。話をしていてもどこか遠い所を見ているようで、話し掛けても上の空だ。どうしたのだろう。何があったのだろう。問うても問うても総司はただ曖昧に笑ってみせるだけだった。
「本当にどうかしたんですか?」
「ん?大丈夫だよ千鶴」
あの日から。この身を覆った傷に気付かれてしまってから、総司は何だか変だ。何を聞いても大丈夫だよとそう言って笑うだけ。一体何に対して大丈夫であるのか、千鶴には皆目検討も付かなかった。
しかしもしそれが千鶴のことであったなら、千鶴が村人から虐げられているということであったなら、そんな事を総司に気にしてもらいたくなかった。千鶴にとって総司さえ傍にいてくればよかった。其れだけで十分だった。其れだけで十分幸せなのだ。
「私は総司さんがこうやって隣に居てくれるだけで十分幸せですよ」
大きな雲の影が冷たい満月を隠す。暗闇が周囲を包んだ。「僕は、僕、は、」
ふわり、と嗅ぎなれなない匂いが鼻を擽る。これは一体?これは、これ、は、
「千鶴、僕が守るよ。千鶴の一番近くで、千鶴と同じ存在で、僕が守るよ。だから大丈夫。何も心配いらないからね」
「総司、さん……?」
それっきり総司は何も答えなかった。満月のような一対の瞳が光る。







090921/有海
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