「人間になりたい?」
時雨はそう復唱する。そうして長い赤い舌でぺろりと唇を一度舐めた。
千鶴は村の人間に虐げられていると聞いた。医師であった彼女の父親が薬の調合を誤り人を殺してしまった。それからというもの、千鶴を含めた雪村家の人間は「鬼」と呼ばれているのだとも。
人間は鬼とう存在を知らないからそんなことが言えるのだ。あんなに柔らかに笑う光のような女の子が鬼である筈がない。しかしどんなに総司がそう思った所で現状は変わらない。千鶴は人間で総司は妖だった。総司がもしも人間であったなら。もしも千鶴が妖であったなら。そうだとすれば幸せだったのかもしれない。願ったところで祈ったところで、何も変わらないのだけれど。
「どうして、また」
「僕は千鶴の傍に居たい。千鶴の傍で千鶴と同じ存在として千鶴を守って生きていきたいんだ」
時雨は目を細めた。
「ねぇ、永い間生きてきた時雨なら知ってるでしょ?教えてよ……!!」
それは慟哭にも似ていた。人間がどうやっても妖になれないように、妖だってどうやっても人間になどなれやしない。そんなこと総司には分かっていたけれど、どうしても諦めきれなかった。
「人間に、ねぇ」
「ないの?」
「まぁ、あるっちゃあるけどさ……」
渋るような声だったが総司はそれに飛び付く。人間になれるなら千鶴と同じ存在として在れるなら、何をしてもよかった。何を棄ててもよかった。
「本当に、人間になりたいかい」
「僕は千鶴と同じ存在になりたい」
うっすらと時雨の顔に笑みが浮かぶ。其れは並々ならぬ決意と覚悟を見せた総司への賞賛であったのか。ぺろりと長い舌で唇を舐めた時雨は、片目を眇めて囁くように告げた。
「なら教えてあげる。どうやれば人間になれるのか」
その刹那音が消えた。
「この方法は誰にも言ってはいけないよ。そして誰に見つかってもいけない。方法は簡単だ。それにその千鶴を虐げていた人間にも復讐出来る」
「それは、どういう、」
「それは……――――」








090918/有海
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