「沖田……」
沖田は猫のように笑いながら近付いてきてそのまま千鶴の隣に並んだ。薫の知らない穏やかさだった。
「僕だって薫がしてきたことを忘れたわけじゃない。でもさ、あの時薫が僕に若落水を与えなきゃ、僕は今こうして千鶴の隣に居られなかったかもしれないしね……千鶴にしたこともっていうわけじゃ断じてないけど、その辺は感謝してたりするよ」
まさかそんな言葉を掛けられるとは思わずに目を見開いてしまう。千鶴が優しく笑ってその言葉を引き継いだ。
「ね、薫。もう薫は一人にさせてもらえないんだよ」
もしかしたら、ずっとずっと自分はその言葉が欲しかったのかもしれない。金も地位も名誉も何も要らないからその言葉だけが。
何時もの様に憎まれ口を叩こうにも言葉が出てこない。穏やかでたおやかな時間が流れる。そんな時間を擽ったく感じていると、沖田が可笑しそうに笑ってこう告げた。
「っていうかさ、薫のその顔すごく間抜け面だよね」
「……沖田ぁあぁぁあぁ!!」
「あははは!!僕は本当のことを言っただけですよ、お義兄さん」
「気安くお義兄さんって呼ぶな!!」
「え―、だって千鶴はもう僕のだし」
「お前みたいな奴に千鶴は渡さないからな!!」
憎みあっていたあの頃が嘘のような、優しい時間。このままずっとずっと続けばいいと柄にもなく思った。見上げた空は澄み渡っていた。









090909/有海.Fin
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