55満月の綺麗な夜、其処で終わると思っていた未来は差し出された手によって今も壊れることなく続いている。手に入る筈がないと思っていた、そんな優しい未来を享受するだけの価値が己にはあるのか薫には分からなかった。
「父様、お代わり、いる?」
「ああ、もらうとも!!ほらほら、沖田くんもどうかね?」
「あはは!!有難う御座います、お義父さん」
「……」
沖田はもうとうにこの生活に馴染んでいて、まるで本当の親子のように綱道と接している。其れを柔らかく笑いながら見つめる千鶴は、薫の知らない、一人の美しい女性だった。
「薫?さっきからお箸が進んでないけど…」
その優しさを己が享受してもいいのか。今まで千鶴には酷いことしかしていないのに。どうして千鶴はこんなに薫に対して温かいのだろう。沖田にとってだって自身を羅刹へと追いやり愛する人間を傷付けた、そんな相手の筈だ。そうであるのに、どうしてそんなに温かくしてくれるのだ。どうしてそんなに優しいのだ。その優しさが今の薫には痛いというのに。
「……御馳走様。美味しかったよ千鶴」
そう言って逃げるように部屋を出て縁側へと向かう。後ろから綱道の呼ぶ声が聴こえた気がしたけれど無視をした。見上げた空は何だか酷く澱んで見えた。まるで己の心のようだと薫は自嘲する。
「……薫、」
その声に視線だけ向ける。柔らかい笑顔が見えて何だか眩しくて見つめていられなかったものだからすぐに視線を戻した。








090909/有海
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