ふと目を開けた時、其処にいたのは紛れもなく己の愛しいその人でした。互いに確かめるように触れた頬は温かくて抱き締めた体も温かくて、涙が零れそうになったのはきっと必然以外の何物でもなかったに違いありませんでした。
「千鶴、」
「歳三さん」
真綿のような緩やかな足枷に身を委ねて、二人は目を瞑りました。それでよかった。ただ其れだけの話でした。
『来世で待ってますだから約束を忘れないでくださいね』
男の脳裏にふとそんな言葉がよぎりました。一体何時自分はその言葉を聞いたのか、つい最近のことのようにも、遠い遠い昔のことのようにも感じられました。しかし男には何時であったのかだなんてどうでもよかったのです。その言葉を発したのが愛しいその人によく似た人物であったなら。



『来世でお前のことだけ、待っててやるから』
女の脳裏にふとそんな言葉がよぎりました。一体何時自分はその言葉を聞いたのか、つい最近のことのようにも、遠い遠い昔のことのようにも感じられました。しかし女には何時であったのかだなんてどうでもよかったのです。その言葉を発したのが愛しいその人によく似た人物であったなら。



「約束は守るから」
男は腕の中の温もりにそう告げました。温もりは幸せそうに嬉しそうに柔らかに笑いながら小さく頷きました。
「ず―っと私の傍に居てくださいね」
桜が風に待って空を覆い尽くします。その幻想的な光景の向こう側、一組の男女が柔らかく笑っているのが見えました。




それはそれは暖かい春の日のことでした。







090901/有海.Fin
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