次目が覚めた時、まず聞こえてきたのは誰かの啜り泣く声。嗚咽。その声が己が居なくなったあとの愛しいあいつによく似ていたから耳を目を塞いでしまいたくなった。でもそれが出来なかったのは、
「ゆきむ、ら?」
赤に染まった布を抱き締めて声を押し殺して泣いているその姿が、愛しいあいつに重なって見えた。遠くない将来に重なって見えた。
「おい、どうしたんだよ」
静かに声を掛ける。声が届いたのか、彼はゆるゆると此方を振り返った。真っ赤に腫れた目元。
「歳光さ、ん……?」
「……は?」
伸ばされた温かい筈の冷たい手が指先が頬を撫でた。彼女は己の中に愛しい人を見ている。「土方歳三」を通して「土方歳三によく似た男性」を見ている。きっとおそらくもう二度と会うことが出来ないのだろうその人を。
「……どうした。話ぐらいなら、聞く」
「……一度きりの終焉ならあげてもいいんです。次は離さないだけですから。約束なんてどうでもいいんです。貴方が居るなら」
「…………」
約束だなんて知らなかった。ただ彼女が安らかになるなら。
「でも独りきりは寂しいですよ……」
「お前、」
「歳光さん」
「………」
「お別れを言う時間さえ与えてくれないなんて……本当に貴方らしい」
重なる。遠くない将来の愛しいあいつの姿が。
「貴方らしくて…本当に貴方らしくて……なんてずるいひと」
どうしてそんな言葉を口にしたのか分からなかった。きっと自分が彼女に愛しいあいつを重ねているからか。
「俺は此処にいるだろ?何処にも行かねぇ。此処にいる。ずっと傍に居るから」
……………千鶴。
「………」
彼女はもう何も言わない。ただただ優しく笑って静かに目を伏せた。その笑い方がまた愛しいあいつに更に重なって見えた。
不意に脳裏にある考えがよぎる。それは有り得ない、妄想と呼ばれても仕方ないそれであったけれど、もしかしたら、彼は、愛しいあいつの、
「……来世で待ってる。何処にも行かないで来世で待っててやる、お前だけ、だから」
彼女は真っ赤に腫れた瞼をうっすら持ち上げながら小さな笑みを唇に乗せて、聞こえるか聞こえないか、その程度の声音で呟いた。
「………有難う、御座います」









「……土方さん」






090901/有海
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