自分が千里という女の元に来てからもう三日が経った。拘束などされていないから相変わらず部屋からは自由に逃げ出せたけれど、自分には其れが出来ない。静寂は嫌いじゃない。それに彼女は部屋に居る時話し相手になってくれた。ただあいつがいない。それだけが寂しかった。苦しかった。痛かった。
「へ―…じゃあ土方さんの奥様は私に似ているんですか」
「あぁ。とてもな」
彼女は顔、声、その仕草が愛しいあいつに似ていた。性格はとてもではないが似ていなかったけれども。
「それは何かのご縁なのでしょうね」
楽しそうに声を漏らしながら彼女は笑う。そうして眩しそうに一度目を細めた。嗚呼この笑い方はあいつのものだ。
「私の知り合いにも貴方によく似た方がいて」
「……俺に？」
「えぇ。とても、よく、似ています」
ふわりと触れたその指先は温かい。
「本当に、よく」
彼女は瞳の先、己の瞳の奥に誰を見ているのか。かく言う自分も彼に愛しい人を見ているのだが。
彼女はその「土方歳三によく似た」女性の話をするときだけ、その瞳に小さな光を宿す。とても優しく愛おしそうに、それでいて泣き出しそうな瞳で。
「おい、お前…」
「千里様!!」
「はい？」
音もなく立ち上がった彼女は襖に手を掛け小さく開いた隙間から何か言葉を聞いた。そうしてゆっくりと襖をまた閉めて振り返らずにこう告げた。
「土方さん、一つお聞きしても良いですか」
「何だよ」
「……貴方は怖いですか。愛しい人を残していくことが」
「……怖くねぇ奴なんていねぇよ。何時だって終焉は怖い。あいつを残していくことが堪らなく怖い。下手したら死より怖ぇかもな」
「本当にそう、貴方は、」
「……どうかしたのか？」
振り返った彼女が泣きそうに笑う。その笑い方がその姿が「貴方の傍にいることが幸せです」そう言って縋った、あの頃の愛しいあいつによく似ていたから、思わず手を伸ばしそうになる。
「『……独りきりは嫌なんです』」
彼女の姿が歪む。声を掛けようと思った途端意識が薄くなり、体が柔らかな光に包まれたのが分かる。それでも彼女は笑っていた。
「『……それでも貴方の幸せが私の幸せだから』」
「ちづ、る……」
暗転。
090901/有海