「……えー、いまいち状況が掴めないんですけど、」
眼前に座る土方歳三の愛しい愛しいあの人にとてもよく似たその人は、困ったように眉を寄せながらそう呟いた。彼女は雪村千里と言う名前らしい。
「歳光さんの御兄弟ですか……?それにしては似すぎというか……」
自分は拘束などされておらず何時だって逃げ出せる状態にある。しかし此処が何処だか分からない以上安易に逃げ出す訳にもいかない。
それにしても己の愛しいあの人は一体何処に行ってしまったのだろう。
「そう言えばまだお名前をお聞きしていませんでしたね。あの、お名前は何と仰るのですか?」
「土方歳三だ」
「…歳三?」
「何だよ」
彼女は驚いたように目を見開く。そうして、ちらりと視線だけ此方に向けた。その表情があまりにも愛しいあの人によく似ていたから、思わず此方も息を飲んでしまう。
「歳光さんを御存知ですか?」
「……誰だ、そりゃあ」
大粒な黒い瞳に僅かに陰を落として、少しだけ寂しそうに彼女は笑う。すぐに明るい笑みに戻ったが、その陰りだけはなかなかどうして消えていかなかった
「……そうですか」
一体自分は今後どうなるのだろう。愛しいあの人さえいれば良かったのにその姿すら今は見えない。嗚呼全てが悪い夢だったら良い。
千鶴は何処にいるんだろう。






090901/有海
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