次目が覚めた時、まず聞こえてきたのは銃声。悲鳴。誰かの断末魔。鼻を付くような赤の匂いに鼻を耳を目を塞いでしまいたかった。でもそれが出来なかったのは、
「小山さ、ん?」
赤に染まった体を太い幹に預けて眠るように瞳を閉じているその姿が、銃に撃たれたあの時の愛しい人に重なって見えた。
「小山さん!!小山さん!!大丈夫ですか?!小山さん!!」
必死に声を掛ける。声が届いたのか、彼はゆるゆると瞼を押し上げた。真っ黒な澱んだ瞳。其処に生を垣間見ることが出来ない。
「ちさ、と……?」
「……え?」
伸ばされた赤い赤い冷たい手が指先が頬を撫でた。彼は己の中に愛しい人を見ている。「雪村千鶴」を通して「雪村千鶴によく似た女性」を見ている。きっとおそらくもう二度と会うことが出来ないであろうその人を。だったら自分に出来るのは。
「……はい。大丈夫ですか……歳光さん」
「……約束を守ってやれなくて、ごめ、ん」
「何を言ってるんですか。これから守って戴きますからね!!」
約束だなんて知らなかった。ただ彼が安らかになるなら。
「そうか……そうだ、な……」
「はい。ですから……っ!!」
「千里、」
「………え?」
「俺は幸せじゃなくていいから……お前が幸せであるといい、と思う、よ」
重なる。背を向けたあの時の愛しい人の姿が。
「俺の運全部やるから……幸せになれ…、な」
「か、勝手なこと言わないでください!!私の幸せは貴方と供にあることです!!言ったでしょう!?私を置いていかないで下さい。ずっとずっと傍に居てください…!!」
……………歳三さん。
「………」
彼はもう何も言わない。ただただ優しく笑って静かに目を伏せた。その笑い方がまた愛しいあの人に重なって見えて、思わず滴が零れる。
不意に脳裏にある考えがよぎる。それは有り得ない、妄想と呼ばれても仕方ないそれであったけれど、もしかしたら、彼は、愛しいあの人の、
「……来世で待ってます。来世で待ってますから、約束、忘れないで下さいね」
彼は二度と瞼を持ち上げなかった。でも小さな笑みを唇に乗せて、聞こえるか聞こえないか、その程度の声音で呟いた。
「………有難う」









「……千鶴」






090831/有海
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