「……あー、いまいち状況が掴めないんんだが、」
眼前に座る雪村千鶴の愛しい愛しいあの人にとてもよく似たその人は、困ったように頬を掻きながらそう呟いた。彼は小山歳光と言う名前らしい。
「何処かの間者には見えねぇんだがな……」
自分は拘束などされておらず何時だって逃げ出せる状態にある。しかし此処が何処だか分からない以上安易に逃げ出す訳にもいかない。それに彼の底冷えする射抜くような瞳が其れを赦してくれない。
「そう言えばまだ名前を聞いていなかったな。名前は何ていうんだ」
「あ、あの、雪村千鶴です」
「…雪村?」
「はい」
彼は驚いたように目を見開く。そうして、ちらりと視線だけ此方に向けた。暗く澱んだ奈落の底のような瞳がそこにあった。
「千里って知ってるか」
「……すみません、存じあげません」
澱んだ瞳に一瞬だけ光が宿る。しかしそれは本当に一瞬のことですぐに暗く澱んだ瞳に戻ってしまう。先ほどの光は気のせいだろうか。
「……そうか。まあいい」
一体自分は今後どうなるのだろう。愛しいあの人さえいれば良かったのにその姿すら今は見えない。嗚呼全てが悪い夢だったら良い。
歳三さんは何処にいるんだろう。






090901/有海
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