お題:この世の終わりが君の笑顔でありますよう(それを願うぼくは確かに人であったのだ)(藤千)




ふと目が覚めると千鶴の姿は隣から消えてしまっていた。どうやら自分一人だけでうたた寝をしてしまっていたらしい。
「起こしてくれたっていいじゃん…」
優しい千鶴のことであるから、気持ちよさそうに眠っている自分を起こさないでいったのだろう。千鶴の気遣いは嬉しくもあるが少しだけ悲しい。
自分に残された時間は限られていて、その限られた時間の中で自身の命よりも大切で愛おしいそんな存在と片時も離れることなく一緒に居たい。子供地味た我が儘だとはよくわかっている。分かってはいても、
「しょーがないじゃん…好きなんだから」
思わず口に出して一人恥ずかしくなる。頬に集まるを冷ます為に外に出た。千鶴も探さなければならない。
ふわりと舞う桜の花弁が体を包む。目を細めて空を眺めた。まだ日差しはちょっと辛いけれど大丈夫。日差しよりも輝く温かい存在が傍に在るから。
「……千鶴、って寝てんのか」
樹齢を百年は超えているらしい桜の木に寄りかかるようにしてこの世の優しさを全て集めて作られたような女が眠っている。その雪のように白い頬にそっと手を伸ばして触れてみた。
自分の両手は赤黒く染まっていて、彼女の雪のような白い肌に触れてしまえばその白を穢してしまうのではないのだろうかといつもいつも怯えていた。でもその度彼女はあの声で藤堂の名を読んで大丈夫だよと笑うから。赤黒いその手を包み込んで優しく笑うから。



いつまで経っても自分は彼女に勝てないと思うのだ。



彼女は今どんな夢を見ているのだろう。その夢の中に自分は出て来ているだろうか。出て来ているのならそれに越したことはないのだが…。
馬鹿みたいだな、と小さく彼女を起こさないように胸の内で呟く。自分に嫉妬するだなんて。
僅かに彼女が身じろぐ。起きるのかと思ったが幸せそうに笑った後また深い眠りへと落ちていった。


彼女が見ている夢がどんな内容であれ、彼女がーー千鶴が夢の中でも幸せであればいい。彼女の幸せ自分の幸せであるから。それでも欲が言えるのならば…。
もしいつかこの身が灰と化して青空の下紛れ消えてなくなってしまうとき、自分が最後に見るのは千鶴の優しいあの笑顔だといい。きっと彼女は優しいから泣いてしまうのだろう。幸せを願うといいながら泣かせてしまう、そんな自分に少しだけ切なくなるけれどーーー……。


小さく名前を呼ばれたような気がして千鶴を見る。相も変わらず幸せそうに眠っている姿に少しだけ笑ってからその頭を膝の上に乗せた。
目覚めた時の千鶴の反応を考えながら小さく目を瞑る。



どうかこれだけは覚えていて。誰よりも何よりも貴女の幸せを願っていた存在が居たことを。その小さな姿に寄り添って生きていこうとしていた存在が在ったことを。






〜090401/有海
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