バレンタインアンケート第一位 
沖田×千鶴(現代パロディ)



二月十四日。その日は少なくとも日本では乙女たちにとって重大な意味を持つ。
高校一年の雪村千鶴も例外でなく、その日に乗じて意中の相手に告白とまではいかなくとも手作りの何かをプレゼントしようと思っていた。そう確かに前日の二月十三日までは。
それなのに二月十四日。千鶴は何か手作りしたものをプレゼントするわけでもなく、かといって市販の物をプレゼントするわけでもなく、逃げるように学校を後にした。
理由は前日の二月十三日に遡る。
部活が始まってもなかなかやって来ない沖田に痺れを切らした副顧問の土方が千鶴に沖田を探してきて欲しい、と頼んだのだ。マネージャーである千鶴は二つ返事でそれを引き受けた。大体沖田の居る場所は検討がついている。
予想通り沖田は裏庭に居た。ただ予想と違ったのは沖田が一人ではなく女生徒と一緒に居たことである。
裏庭、一組の男女、頬を染めた女生徒。この三つから考えられることは一つだ。



結局千鶴は逃げるようにその場を後にした。沖田に告白していたのであろう女生徒は自分より何倍も可愛い人で、沖田はきっと彼女と付き合うことにするのだろう。そう考えるとどうしても沖田に渡すチョコを作る気など起きず、そんな気持ちの中作ったものだから味は最悪、見栄えも最悪というものになってしまった。これではとてもではないが沖田に渡すことなど出来やしない。だから千鶴は逃げるように学校を後にした。幸か不幸か校内で沖田に会うことはなかった。



「……折角作ったのがこんなのじゃ駄目だよね」
「何が駄目なの?」
「チョコなんですけ…ど…!?」
今家には自分一人の筈である。それなのに居るはずのない人間の声がした。しかも今一番会いたくない人物の。
「なっなんで沖田さんが此処に?!鍵は…!?」
「鍵?」
事も無げに沖田は言う。
「開いてたよ。不用心だね千鶴ちゃん。ちゃんと鍵はしめなくちゃ」
「……はい、分かりまし、た?」
何で自分が怒られなければならないのか。少しムッとしながら沖田を見上げると、当の沖田も大層不機嫌そうな表情をしていた。何度か沖田が不機嫌そうにしているところはみたことがあるが、ここまで不機嫌そうなのは初めてである。
「…どうかなさったんですか、沖田さん」
「……千鶴ちゃんさあ、」
千鶴の問い掛けをさらりと沖田は無視をして続ける。言葉が刺々しいのは気のせいじゃない。
「何で今日一日僕を避けるのさ。昨日も部活に来なかったし」
「えっと、それは…」
「それに千鶴ちゃん、僕に渡す物があるでしょう。早くだしなよ」
「……は?」
ご丁寧に手まで差し出してくる沖田に千鶴は首を傾げる。そんな千鶴に沖田は痺れをきらしたのか、千鶴の背後に隠すように置いてあるラッピングされた包みを取り上げた。千鶴が取り返そうとするももう遅い。
「これ、僕にでしょ?」
「……!!ちっ違います!!」
「ふぅん?じゃあ誰の?」
「それは…」
「誰の?」
「…沖田さんのです」
「ほらやっぱり」
言いように丸め込まれてしまう。それが悔しくて何とか反論を試みてみる。
「お、沖田さんは私から貰わなくても貰えるじゃないですか…!!」
「誰に?」
「えっと…」
「……あぁなんだ千鶴ちゃん、昨日の見てたんだ?」
「……!?」
沖田は目を猫のように細めて面白そうに笑う。不機嫌な顔はどこへいったのか。何だか居たたまれなくなって千鶴は目を伏せる。バリバリとラッピングが剥がされていくをどこか他人事のように聴いていた。
「千鶴ちゃん、ヤキモチ?」
「ち、ちが…!!」
「違わない。だからこんなに失敗しちゃったんでしょ」
クスクスと笑いながら沖田はどう見ても失敗作と分かるチョコを口にする。その甘さに一瞬だけ眉をしかめるがすぐその口は弧を描いた。
「僕ってさ独占欲強いんだ。知ってるよね」
初耳だとは言えない。
「このチョコは僕の物。だったらそのチョコを作った千鶴ちゃんも僕のもの。そうでしょう?」
有無を言わさないその口調に思わず頷いてしまった。しまったと思ったときには既に遅く、沖田のその逞しく温かい腕の中に居た。
耳元で沖田の甘くとろけるような声がする。
「千鶴ちゃんは僕のものなんだっていい加減自覚してくれないかな」
自分はいつから沖田のものになったのか全く検討がつかなかったが、このまま流されてしまうのも悪くないと思ってしまうあたり、この二月十四日という甘い香りに毒されてしまっているのかもしれない。





090318/有海
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