バレンタインアンケート第二位:土方×千鶴(現パロ)



「土方さーん」
彼の名字は珍しいものだと思っていたが案外そうでもないらしい。現に千鶴の住む家の近くのこの銀行で、彼の名字と同じ人間に出会ったのだから。
「土方さーん。いらっしゃいますかー」
一体どんな人なのだろうと少し期待しながら「土方さん」が現れるのを待つが、当の人物はこの場にいないのかなかなか現れない。
繰り返し呼ばれる彼の名字を聞きながらその「土方さん」がどんな人であるのか想像する。彼みたいに人一倍責任感が強くて仲間思いで、とてもとても優しい人なのだろうか。そんな「土方さん」を脳裏に思い浮かべ、その隣に己の愛おしい『土方さん』を並べてみる。何だかおかしくて思わず忍び笑いをもらして……千鶴は大変な事を思い出した。
「土方千鶴さーん。いらっしゃいませんかー」
「は、はいっ!!いますっ!!すみませんすみませんっ!!」
嗚呼、自分も土方だった。




「……ということがあったんです」
土方の脱いだ上着を受け取りながら頬を赤く染めて千鶴は言う。この冬千鶴は高校時代から交際していた土方と結婚した。しかし交際期間が長かった為からか、その口に馴染んだ「土方さん」という呼び名はなかなか抜けてはくれず、土方のことを「土方さん」と呼ぶ度土方に「お前も土方だろうが…」と注意されていたのだ。
「頼むからいい加減慣れてくれ…」
土方の溜め息混じりの声に千鶴は小さくなる。その心底申し訳なさそうな顔に呆れながらも微笑ましく思ってしまった土方は、もう一つ溜め息を吐くと小さく笑って流れるような黒髪をそっと労るように慈しむように撫でた。その瞳に普段の彼を知る人間が見たら驚くに違いない温かい光を宿して。
「うぅ…ごめんなさい…」
「全く、これじゃ結婚したのか分かりゃしねえ」
「あう…」
土方としてはからかっているつもりだったのだが、どうやら千鶴は真に受けてしまったらしくただでさえ小さい体を更に縮ませる。失敗だったか、と土方は胸中で呟くと、しょうがねぇ奴だな、と今度は声に出して呟いて、その小さくな体を思い切り抱き締めた。途端に千鶴は顔を林檎のように染めて固まる。が、暫くするとそろそろとその腕を伸ばして土方の体を優しく抱き締めた。
「土方さ…」
「ったく、何回言わせりゃあ分かるんだ」
「………、と、歳三さん」
慣れない名前呼びに千鶴は更に顔を赤く染める。どうしてたかが名字が名前に変わっただけなのにこんなにも恥ずかしいのだろう。こんなにも心が温かくなるのだろう。こんなにも、
こんなにも、愛おしく想うんだろう。
土方の胸に千鶴が顔を埋めている間、土方は暫くの間何かを考えていたようだったが、その考えが纏まったのか口角を上げて意地悪そうに笑いながら千鶴の顔を無理矢理上げさせた。千鶴の赤い顔が露わになる。
「千鶴、」
「は、はいっ」
「これから俺のことを土方って呼びやがったら」
そこで一度区切って唇を耳に寄せる。彼女は取り分け耳が弱い。
「その度にーーーー」
「は、へっ!?」
「そうすりゃ嫌でも慣れるだろ…。ああでも慣れなくてもいいかもな」
ニヤリという効果音が似合いそうな笑みで土方は笑う。それに対して千鶴は今にも泣き出しそうだ。
「ひっ土方さ……!!」
「早速かよ…」
失態に気付いた千鶴が腕から抜け出そうとするが、それを抑えつけて土方は笑う。口調とは裏腹にとても楽しそうだ。
「覚悟しろよ千鶴」

この後何が起こったのかはまた別のお話。





090307/有海
ありきたりなネタ。土方さんが何と言ったかは御想像にお任せ致します。
アンケートに御協力戴き、本当に有難う御座いました!!
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