身も切るような寒さの中、ここ京の新選組にも新年が訪れた。流石の新選組も新年ばかりはその仕事の手を休め束の間の休息を楽しんでいるようだ。
夕刻から続いた宴会は除夜の鐘が鳴ると共にお開きとなり、隊士たちは揃って近くの神社に初詣へ出掛けて行く。それは幹部たちも例外でなく、まだ体調が優れない沖田でさえ行くと言ってきかなかった。土方がそれを許すはずもなかったのだが結局土方が折れる形となり、沖田含め幹部たちはほろ酔い気分で出掛けて行った。あの山南でさえ今日は上機嫌だ。
そんな幹部たちを尻目にせっせと書類整理を行う土方のそばに千鶴はいた。所在なさげに漂う視線はやがて土方に定まる。
「土方さん、皆さん初詣行っちゃいましたよ?」
恐る恐る土方に向かってそう声を掛ける。邪魔にならないようにけれどもきちんと聞こえるような声で。こんな時くらい休めばいいのに、だなんてとてもじゃないが言えない。
「書類が溜まってるんだよ」
端から見ても分かるような疲労を滲ませた返答が返ってくる。その表情にも疲労がありありと見てとれて、千鶴の胸が少し痛む。こういう人だとは分かってはいる。自分のことよりも第一に新選組のことを考えるような人だ。大方、初詣から帰ってきた近藤の負担を減らそうとしているのだろう。
そんなことして自分が倒れたら元も子もないですよ、そう言いたいのを堪えて千鶴は言葉を紡ぐ。
「分かってますけど…」
でも折角の新年ですし…言いかけて無駄だと気付く。それでも言葉を止める事は出来なくて、結局意味不明な言葉を羅列してしまう。
「俺ぁ神頼みは嫌いなんだよ…それよりお前は行かなくてよかったのか。総司にやたら誘われてたじゃねぇか」
土方は笑うだろうか。自分が今から紡ぐ言葉を聞いたら。真面目な土方のことだ。笑いはしないだろう。でも苦笑ぐらいはするかもしれない。彼は優しい人だから。
「えっと、あの、その…」
その迷いのためだろうか、うまく言葉にする事が出来ない。いつもはこんな事は起きないのに。早く、早く言わなければと気持ちだけが先走ってそれがまた一層口の動きを鈍くする。もし嫌な顔をされたらどうしよう。もし呆れられたらどうしよう。もし、
「…何だよ」
「ひ、土方さんとその、だから、」
顔に血が上るのが分かる。今自分は目も当てられない程真っ赤になっているんだろう。恥ずかしくて死んでしまいそう。
訝しげにこちらを見る土方から逃げるように視線をずらすと、蚊の泣くような消え入る声で呟く。

土方さんと一緒に……

「……千鶴、茶ぁ煎れてこい」
「へ?」
見当はずれな返答に思わず視線を上げると穏やかな瞳と目があった。忙しなく動いていた筆も今は止まっている。
「少し休んだって罰は当たらんだろ…お前も休め」
一緒に過ごすんだろ?と語尾に付け加えられた優しい声音に思わず頬が緩む。
今すぐ煎れてきますね!!と立ち上がれば、転ぶなよと意地悪そうな声で返される。
「転びませんっ!!」

慌てて部屋から出て行った千鶴は気付かなかった。土方が幹部たちも驚くような、愛おしげな柔らかい光をその瞳に宿して千鶴の後ろ姿を見つめていたことに。


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あけましておめでとうございます!!
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